平成25年3月14日(木)
少し寒い
家いる猫たち、人間の布団の上で寝ている。もう一匹、よっちゃんと名付けた茶トラがいるが、『シロ』がシカトするので、参加できずにいる。
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昼食は、一時に始めた。テーブルにホットプレートをセットして、お好み焼き中心のメニューで、コーヒーマシーンがあるので、コーヒーは飲み放題の70歳代の家の食事とは思えないスタイルであった。この家は、父母とも洋風な暮らしを続けていた。まず畳の部屋もなかった。先祖が神主と知れば、そのギャップに驚くかもしれなかったが、今に至るまで、それは知らされずに育った智子や礼一にとっては、いつも通りに感じるだけであった。
「今回の事では、ご迷惑をかけました。すみません」と礼一は、食事の前に頭を下げた。
「そうだな、今回は、俺も悪かったかな、礼一が悪いばかりではないからな」と、父の言葉は、いま一つ分かりにくかった。礼一は、最近になって、祖先が神社の神主だと知ったのだが、それがいま礼一を縛っている元凶とは微塵にも思っていないのだから、父の言葉を正しく理解することはできなかったであろう。
「まあでも礼一が戻ってきたのだから、まず一安心だわ。食事をはじめましょう」と、母は、気楽そうに、のんびりした声でみんなの緊張を解いた。
「今回、家の苗字について、いやに話題にされて、奇妙な気がするんだよ。子供時代もよくからかわれたけれど、今度は、そんなことではなく、もっと深刻というか、血脈というか、そういうことに興味を持たれて、出来れば自分の物にするというか、草笛家にいる間中、絶えずそのことをささやかれていたような気がする。この苗字に、何か意味あるの?」礼一は、お好み焼きをいじくりまわしながら、話している。
智子と父は、顔を見合わせ、智子がうなずいた。父は、口下手であった。
「礼ちゃん、これから話すことは、現実離れしているけれど、どれも本当のことで、実際に目で見ていることでもあるの。また、すごく用心しないと、殺されることもあるということを肝に銘じて、口外しないと約束してほしい。あなたのうかつな言葉で、いろんな人に迷惑がかかることもありうるということなの」
「うちの苗字で、そんなことまで考える必要があるの?」
「わが家は、おじいさんの代まで、熊本で神主をやっていたけれど、おじいさんが、途中で神主を辞めて、東京の大学で古文を教えるようになってから 、一切神社関係のことは封印されてきたのよ。だけど苗字の『天』だけは残って隠しようがなく、これが天照大神につながる古い家系だと分かる人には、すぐばれるのよ。祖先は熊本にある神社で、代々神主を勤めて、中には、霊力の強い人もいたのよ。神主って、地霊を鎮めたり、家に居る悪霊を除いたりするでしょう。たいていの人は、お祓いの形だけと思っているけれど、霊力というのは本当に存在していて、悪霊を退散させる力のある神主さんもいるのよ。曾爺さんが有名だったみたい。おじいさんにはその力がなかったので、氏子に責められ、神社を他の神主に譲って、東京に出てきたということよ。お父さんも、霊力は表に出てこなくて、我が家はずっと平和だったのよ」智子のそこまでの話は、礼一にとっては、それほどのニュースでもないようであった。まだ外堀の段階で、智子が様子を見ながらこれ以上進んでいいか見極めていた。
「これからが本番で、今起こっていることなの。まず、人には、必ず霊が入っていて、人は誰かの生まれ変わりということはよく聞くでしょう。たいてい絵空事と思われて、公に言うほど、信じる人はバカ扱いになるけれど、生まれ変わりでも、それを認識できる人はとても少ないので、もちろん信じなくてもいいのよ。中に、霊と協力して仕事ができる人がいるのよ、あなたが会った宗像幸代さんは、島根から福岡あたりに存在する古い日本の地霊に守られている。彼女は、その霊と協力して、新しい宗教を作り始めてかなり信者を集めているのよ。『茶観悌』という組織で、草笛ひかりさんのお父様も参加しているのでしょう。どういう宗教かはわからないけれど、お茶に関係していることは確かで、原宿にある『モダーン・ティーカンパニー』という喫茶店を知っているでしょう。あそこから信者に誘われる人も多いのよね」
「霊って、あのお化けみたいなもの?そんなものを姉さん信じているの?」やっと礼一は、話を聞くことに集中し始めた。
「霊は、基本的に表に出ないので、信じる対象にならないのだけれど、生きるか死ぬかという瀬戸際で、出会うこともあるのよ。私は、この二年間、自分の霊を通して、他の霊からも守られている。それは基本的に、人間なんだけれど、その人たちの中にいる霊が、霊同士の結束を固めて、進むべき道を示してくれるの。私は、42歳まで、植物に関わってきたわけではなかったでしょう。それがこの二年で、いっぱしの植物学者になっているのは、思いつ気ではなく、霊の意志に協力した結果なのよ」
「姉さんは、その霊にあったの?」と礼一は、すこしは、智子の話を信じ始めた。
「スーパーのレジ係を首になった晩に、どうとでもなれという気持ちを持っていた時、アパートで会ったのよ。というか私の中から出てきて、それから霊という存在を知ったのよ。また、その後、宗像さんが、占い師をやっている時、渋谷の占いの館というところを面白半分のつもりで訪ねると、宗像さんに捕まり、田所と名乗っていたのに、一年くらい、彼女に追いかけられていたわ。それを今の研究所の人に救われ、研究所での仕事がはじまったのよ。彼女に関わった二人の男の人が、死んでいるわ。心臓発作ということだけれど、役目が終わったという理由で殺されたと霊たちは言っている」
「オカルト的なんだね。僕にも霊はついているわけ」
「あなたの霊は、のんびりしているらしい。ひかりさんもそう。強い霊なら、こんなに霊力の強い人たちに囲まれていれば、なにかことを起こすそうよ。礼ちゃんが、天文学に興味を持つということは、霊力に導かれているということなのよ。天空は、無限に広いから、地霊のような争いを好まないといと私の霊が教えてくれた。でもあなたが草笛家で落ち着かない状態になっているのは、『茶観悌』に引き込もうとしている宗像女史のせいで、草笛家と関わると、霊ちゃん自身が壊されることもあるのよ。うつ病になるとかね」
「僕はどうしたらいいんだろう。ひかりも父親の傀儡と言っていたよね。別れた方がいいのか、結婚してやって、父親から離した方がいいのか、なんだかよくわからなくなってきた」
「ひかりさんと結婚することは、『天』という苗字の子供が生まれて、その子が、霊力があれば、『茶観悌』の教祖に祭り上げられかねない。そこが狙いだったと霊たちは言っている。ひかりさんと結婚するなら、日本を出る事が一番で、地霊は、外国まで追っていかないし、外国で生まれた子供は、基本その国の国籍を会得するから、『天』と名乗っていても心配するようなことにはならないのよ。ひかりさんとこんなこと話せるかな。彼女が父親の呪縛から解かれない限り、礼一とまっとうな話はできないでしょうね。どこか、父親や宗像女史の力の届かない場所で、彼女が目覚めた状態で、将来について話せるといいわね。彼女たちの力のと届かない場所ってどこかしら?」智子がそういうと、 父親が、答えをくれた。
ボケの花 関東でもそろそろ咲き出している。




