家の近所と学校が世界のすべてだった子ども頃、
通学路から外れて寄り道をする度に、少しずつ視野が拡がった。
初めての角を曲がって足を踏み入れる路地の風景にドキドキした。
いつも立ち寄る秘密基地に魅力を感じている友だちもいたけれど、
ボクは、どちらかと言えば、新しいエリアへの冒険を好んだ。
中学1年生の時、部屋に日本の白地図を貼った。
好奇心の成長とともに行動の限界を広げ、学校が休みになると学割で買ったJRの周遊券を手に旅に出るようになる。週末も利用して、乗ったことのない鉄道や船やバス路線を使って、訪ねたことのない街へ、友だちと、時には一人でも出かけた。
若い旅行者に人々は優しかったし、教科書に出てくる地名や旧跡を直接目にするのは、いつも刺激的だった。
帰ってくると、部屋の白地図にマーカーで旅行のルートを書き入れた。
その当時、『遠くへ行きたい』(永六輔作詞、中村八大作曲)を歌いながら、地図と時刻表を眺めて旅程を考えていた。旅番組『遠くへ行きたい』(日本テレビ系)の主題歌で、ボクは日曜朝のその番組を見るたびに、歌詞の通りに旅に出たくなったものだ。
ちなみに、この番組はまだ続いているのかなぁ、と検索してみたら、明日朝の放送でなんと37年目に突入するらしい。回数にして、1,822回。スゴイ。
大学卒業の頃、白地図のラインは交錯し、47都道府県のほぼすべてにボクは足跡を残している。
仕事に就いてロケや出張で沖縄県西表島や北海道にまで足を延ばし、結局、日本の全都道府県を踏破したことになる。
ところで、いまボクの週末は、完全に休養に当てられている。
たまの休暇も近郊の温泉に出かける程度で、出張以外の旅行をあまりしなくなった。
第一、「遠くへ行きたい」という気持ちすら忘れていた。
都道府県は制覇したけれど、日本中の街に行ったわけでも、世界中を旅したわけではない。海外渡航経験は、南の島を中心に回数だけは数十回を数えるけれど、訪れた国(地域)は、10に満たない国(地域)と思う。まだまだ行っていない国や行きたい都市が世界にはたくさんあるのに。
体力が落ちたのか、好奇心が衰えたのか。
もし仮に、いま一週間の休暇をもらったとしても、せいぜい一か所の温泉に滞在するだけのような気がする。
日常に満足しているわけではないので、あらためて考えると、逃避やリフレッシュの意味も含めて、遠くへ行きたい。でも、そのモチベーションがこのところ、ない。
先日、ベルトを買った。
ベルトなんて、そうしょっちゅう買うものではないのだが、デザインコンセプトに惹かれての衝動買い。
古い自転車のチューブを再利用、加工してイタリア製のバックルをつけたドイツのベルトなのだ。
ドイツ語でチューブを意味するというブランドロゴ“SCHLAUCH”(シュラウヒ)は、企業CIを得意とするドイツのグラフィックデザイナーの手による。
エコロジカルなデザインが施されているけれど、中国製のチューブには現役時代の痕跡が残っている。
欧州かアジアか、アフリカか、どこかの国のどこかの街を走っていた自転車に装着されていたタイヤのチューブだ。
日々のいろんな出来事を思い起こしながらこのベルトに触れていたら、イメージがどんどんと、遠くへ飛んでいく。
久しぶりに自転車を引っ張り出して、走り出したくなる。
国境を越え、赤道を越えて、海外の街へも行きたくなる。
旅に出るのも、いいかもしれないな。
ウダウダと日常の問題に振り回されるのにも、少し飽きた。
久しぶりに、遠くへ行きたいと、少しだけ、思った。
