山手線の駅から少し歩いて、住宅街のマンションの地下にある店で、気分転換メシ。
メニューにはお任せのコースしかないのだけれど、リーズナブルな価格と、丁寧なサービスに好感の持てるお店だ。
オープンキッチンに面したカウンターで、小気味よく動く料理人たちの手さばきに目をやりながら、古い友人と3時間かけてゆっくりとメシを食う。
仕事上の繋がりはなく、共通の友人もいないけれど、広い意味で同じギョーカイなので、価値観も似て、悩みも喜びも、思いを共有できる。
ほとんど1年振りに会ったので、その間の恋愛話を聞いたりしながら、相変わらずだなぁなんて思いつつ、真摯にアドバイスをしたり理不尽な展開に驚いたり。
前菜に登場したのが、スイカとトマトの冷たいスープだったりして、このあとの料理に期待して思わずほくそ笑む。
続いて薄くスライスした桃の下には、よく冷えたカペッリーニ。
岩塩の粒が舌に美味しく触る。“塩”はボクの大好物。
強すぎず、でも、キチンと主張する塩粒を味わうために、桃の甘さがちょうど良い。
ソースはシンプルにオリーブオイルとレモンをたっぷり搾って、赤い粒胡椒と少しだけミントの葉。
軽く炙った河津の鯖を、白ワインとビネガーで〆て、カットしたマンゴーとリンゴのゼリーで。
産地の異なる3種類のオリーブオイルを楽しみながら、自家製のフォッカッチャ。
先日別れたばかり、というグダグダの恋話を聞きながら、それでも、新たなひと品がサーブされる度に料理の説明を受け、話は中断。
ひとくち運ぶ毎に、おお!と感嘆しながら、素材や調理法に話題は移る。その瞬間、いとも簡単に恋の悩みが吹っ飛んでいく。
他にも何品か登場して、メインは鴨。供される料理の力で、仕事の悩みも、生涯十度目くらいの失恋話も、軽くなる。
最後に、秋の茸が数種類使われたリングイーネが登場するのだが、ホール係に、お腹の具合はいかがですか?と聞かれる。
「桃の冷製パスタ」を“1”として、どのくらい食べられますか?
ボクは、×2で、とお願いして、食べ始めてから、×3にすれば良かったかな、とふと思う。
ココまでで、2時間が過ぎている。
デザートと食後のコーヒーは、活気のある厨房に挨拶をしてから、1階の静かな席に移って。ありがとうございました!と、7-8人はいる料理人たちの声が気持ちよく追いかける。
ごちそうさま。
ラウンジでエスプレッソとジェラートをいただきながら、話の続きが小一時間。
深夜まで営業している貴重なイタリア料理店の閉店時間を気にしながら、ようやく席を立つ。
見送りの店員に心から賞賛と再訪の挨拶をして、店を出る。
深夜の住宅街を、結局さ…などと話をまとめながら大通りへゆっくり数分。
また、近いうちに。と、声をかけながら、たぶん、次に会うのは早くて半年後。
お互い、忙しい。
深夜の住宅街で空車のタクシーを探しながら、空気はもう秋。
そういえば、桃の季節ももう終わりだな。
その瞬間、ボクのアタマのなかから、仕事の悩みは消えている。
