青空の卵、仔羊の巣、動物園の鳥/坂木 司 | デジタル編集者は今日も夜更かし。

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青空の卵


読んで良かったなぁ、とシミジミ思える優しさあふれる小説シリーズで、
しかし他人に強く薦めたいか…というとそういうわけでもなく、なんとなく読者のココロのなかで自己完結して満足してしまう不思議さも併せ持つ。


素敵なお話なのでもちろん多くの人に読んでもらいたいけど、でも、受け入れられない人も多いのかもしれないな、と思ったりもする危うさがある。
そして何より、小説から受ける影響力が大きくて、自分自身が作者の意図を身をもって実践したくなってしまうのだ。


ジャンルとしてはミステリーなんだけど、殺人も誘拐も起こらず、事件は日常のちょっとしたトラブルが中心で、しかも、そのちょっとした日常っていうのが、ボクたちが生きていく上でいかに大切なことかを思い出させてくれる。


ホームズ役は、ひきこもり。
ワトソン役は、“僕”。
ひきこもりを探偵役に立てるアイディアはそれだけで面白そうだし、ひきこもる原因が、学生時代のいじめなのでキャッチーなテーマだったりする。でも、それだけの小説ではない。
登場人物がすべて魅力的で、事件そのものも、海外ドラマのように併行して展開するサブエピソードも、すべては主人公たちが関わる周囲の人々の幸せへと繋がっていく。
そして、事件を解決していくひきこもり探偵をサポートする“僕”自身が、自答しながら成長していく過程がとても真摯で、性格的に正反対であるボクにはとても好感が持てた。
ミステリーだけど、謎の解決を急いでイッキ読みをするのではなく、彼らのペースで、彼らの成長の過程に合わせて、じっくりと、ゆっくりと、自分を振り返りながら読んで欲しい。そんな小説だ。


作者は、大人になっても弱い人たち、大人になっても涙を流す人たち、大人になっても寂しくて、誰かにかまって欲しくて、一人になったとき、部屋で泣くことのある人たちを主人公にした。大人になっても、自分はこのままで良いのか、と問える人たちを描いた。



正直言って、ボクはそんな感情とはしばらく無縁だった。
青春真っ盛りのころは別として、それこそオトナになってからは、仕事をしていく上で、ボクってスゴイだろ?と逆に周囲に同意を求めたりしながらモチベーションを高めていくことでプレッシャーと戦ってきたのだ。そのくらいじゃなきゃやっていけねぇよって。


じつはそれが最近、あることをきっかけに、イッキにズレ始めた。
このところのボクは、とっても弱い。弱虫なのだ。
あー、ヤダヤダ。もう、こんな自分なんて大嫌い!と思ったりもする。
自己嫌悪なんてしている暇はなかったし、自信満々じゃないとやっていけない環境にもいた。だから、自信を持てるように努力もしたし、自己暗示もかけてきた。
でもいま、ボクは、ちょっと危機。
この秋は結構大きなプロジェクトが控えているし、仕事量も加速度的に増えていて、周囲の人々に対する責任もあるんだけど、ちょっとココロが泣いている。
エイヤ!と自分を騙す方法は、オトナなのでそれなりに持ってはいるけれど、さあてそれでこの危機をクリアできるのか。
もしかしたら、この小説の主人公たちのように、今さらながらにゆっくりと成長しながら強くならないといけないのかもしれないな。


さてさて、弱音はこのくらいにして、ひきこもり探偵のシリーズは三部作。
強くは薦めないけど、やっぱり、できれば多くの人に読んでもらいたい。
この小説を読みながら泣ける人、ボクは好きです。


■青空の卵/坂木 司■

■仔羊の巣/坂木 司■

■動物園の鳥/坂木 司■