今年の夏の匂い。 | デジタル編集者は今日も夜更かし。

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かすかな、梅の花や沈丁花の香りで知る春
秋風とともに漂ってくるキンモクセイの香り。
穏やかな季節は“香り"で始まるが、
夏には、香りよりも“匂い"という表現がふさわしいのかもしれない。そういえば、夏の花には印象的な香りを持つものがあっただろうか。

梅雨が明けきらない6月の終わり頃、今年の夏はエアコンの埃くさい匂いから始まった。

そして都心のヒートアイランド化がさらに進んだように感じたこの夏、例年なら部活帰りの高校生の傍若無人な汗の匂いに辟易する電車のなかで、ボクがイチバン嫌だったのが、オヤジの扇子。

子どものころ、母の使う細工の入った小ぶりの扇子からは、微かに白檀の香りがした。暑がるボクをゆっくりと扇いでくれる風は、母の優しさそのものだった。そういえば、母のハンカチからも同じ白檀の香りがしたな。

それに比べて、バタバタとせわしないオヤジの扇子は、風下に汗くさい体臭をまき散らす。隣のつり革にぶら下がったオヤジが巻き起こす風が、オヤジを経由してボクの頬を撫でたりすると、思わずのけ反り、一歩後ろに下がってしまう。煙草の副流煙ならぬ、副流臭だ。

そんな電車に毎日乗っていると、当然、自分の体臭も気になってくる。
注意して時々クンクンしてみると、気温33度でジワジワとかく汗と、筋トレのあとの汗とは、異なる匂いであることに気がつく。ジワジワ汗の半乾きは、我ながらいただけない。人の振り見て我が振り直せ。できればシャワーを浴びたいけれどそうもいかないので、フェイスタオルを携帯して小まめに拭ったりした。
それと、今年はトワレを2種類用意して使い分けている。BULGARIのブラックと、AXIS HOMME。もちろん使い過ぎは傍迷惑だし、消臭効果があるわけではないのだが、少なくとも自分自身には心地良い香りの自己満足。

夏の終わりになってようやく取れた短い夏休みで、伊豆にドライブ旅行に出かけたのだが、目的は温泉三昧だったので水着を持って行かなかった。それでもチラリと、土肥の海岸に降りてみた。お台場や芝浦でいつも感じる東京湾の海とはまったく異なる透明な海の匂い。
本当の海の匂いを忘れていた。

家の前には、住宅に囲まれて約600坪の畑があった。
お年寄り数人が家庭菜園の延長レベルの耕作をしていて、栗の木が何本かと小さな藤棚があって、おかげでリビングからはいつも緑を眺めることができた。とても採算が取れるとは思えず、税金対策大変だろうな…と人ごとながらに思っていたのだが、ついにその畑が整地され、マンションが建つことになった。
先日、ついにすべての木々が切られ、マンション建設が決まってからしばらく伸び放題になっていた夏草が刈られた。草刈りを横目に見ながら出社して、夜、帰宅するときにスッキリと整地されてしまった脇を通ると、夏草の強い匂いが辺りに強く漂っていた。
ずっと忘れていた、子どものころの夏休みの匂い。空き地の草むらをかき分けて遊んだ時に、いつも周囲にあった匂いだ。
思わず立ち止まり、深呼吸を繰り返す。
そうか、夏は花の香りがしない代わりに、木や草そのものが強く匂っていたんだと思い出す。

夏を、夏らしく過ごさなくなってだいぶ経つ。
海にも行かず、野山にも出かけず、気温だけが亜熱帯化しつつある都心で、人工的な冷気を浴びながらやり過ごす季節。四季を楽しむことを心がけているつもりだったのに、本当はイチバン好きだったはずの夏をないがしろにしていた。
もう来年の夏はコンクリートのマンションになっている畑が、最後に本当の夏を教えてくれた。

kuiuchi