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雑記帳「目白で目が白黒」

エディットハウス代表 岩中祥史のブログ


雑記帳「目白で目が白黒」


 さすが、退院してから1週間ほどは、自宅で、ほとんど何もせずに過ごしました。スタッフの書いた原稿のチェック以外、プリントアウトを手にすることもありませんし、メールの返事を出す以外パソコンに向かうこともありませんでした。生涯初めての経験といっていいかもしれません。


 退院にあたり、担当の医師からは、術後の過ごし方に関しさまざまのアドバイスを頂戴しました。食事、酒、運動などの生活習慣、仕事に対する取り組み、リラックスのしかたなど、それは多岐にわたっています。タバコは「百害あって一利なし」で、手術を受けたのを機にやめるよういわれました。でも、それで「はい、わかりました」といってやめられるシロモノではありません。タバコにはやはり中毒性があるのです。


 といって、それ以上にひどい中毒性を持っているのが砂糖というか、糖質であることは意外と知られていないようです。実際、「糖質に中毒性がある」ということはだれも教えてくれません。一部、そうしたことを説く医師や栄養学者はいるのですが、そうした主張はなかなか浮上してこないようです。



 私が以前から信頼している医師は、そのことを主張してやまぬ数少ない一人です。だからというわけではないのですが、私も、タバコより糖質を断つことにエネルギーを向けています。もちろん、それはそれでむずかしいのですが、ここ1年ほど、米やパンに対する執着はほとんどなくなりました。


 たまに、仕事の付き合いで、やむを得ず米をほんのひと口、ふた口食べただけでも、その影響は顕著にあらわれてきます。まぶたが腫れぼったくなる、体が重い、眠たくなる……というのが主だった現象ですが、そんなとき「あっ、ヤバい」と感じます。糖質の中毒症状はタバコ以上であることを実感します。

 生まれて初めての入院、生まれて初めての手術を経験した2日後。体のあちこちにチューブをつけられ、それらを取りまとめるのに欠かせない車輪付きの器具をひきずりながら、院内を歩きました。なんでも、「安静にしている必要はありません。むしろ、無理してでも体を動かすようにしたほうが回復も早いですし、退院してからも楽になります」ということのようです。



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   本当にこれが自分の体なのだろうかと感じつつ、ゆっくりゆっくり歩を進めます。5分も経つとあちこと痛みが出てきます。とくにメスで掻っ切った腹部の傷跡周辺のいたみといったら、もうたまりません。それでもあと少しあと少しと、自分を叱咤しながら10分間歩き続けました。健康であることのすごさを改めて感じずにはおれません。


 ベッドに戻ると、会社から「原稿の最終チェックを」ということで、スタッフがプリントアウトを持ってきました。読めばかならず、直したい箇所が出てきます。400字7~8枚の原稿に、大小取り混ぜ訂正指示が20箇所近く。頭だけはきっちり働いています。でも、逆に、そのことに感謝し、心はもう次の仕事に向かっていました。


 9月に上梓する『名古屋の品格』の「まえがき」を書きました。私が入院している病院の敷地はなんとも不思議なことに、江戸時代、尾張藩の下屋敷があった場所なのです。よりにもよって、これほど縁の深い場所で……ということに感慨を覚えつつ、あっという間に書き終えてしまいました。


 たしかに、私の仕事は因果な仕事で、体さえ動けば、どんな場所でもできてしまいます。手が動かなければ、口述筆記などという方法まであります(私には経験がないが)。病室に持ち込んだパソコンでワープロソフトを立ち上げれば、あとは頭に浮かんだことを次々打ち込んでいけばそれでいい。プリントし推敲を加え、それを入力し再度プリントしてチェック。それで問題なければ入稿です。
 入稿といっても、かつてのように原稿を直接編集者に渡すこともなければ、プリントアウトしたものをファックスする必要もありません。入力したデータをメールに添付して送ればそれで完了です。おかげで、いいことか悪いことかわかりませんが、私が編集者をしていたころに比べ、著者と顔を合わせる機会はめっきり減りました。

 7月13日から16日まで、韓国に行きました。目的は世界遺産のひとつである水原(スウォン)の城跡を観ることです。前々回行ったときも観たいと思ったのですが、ソウル市内から行くのがけっこう面倒くさそうだったので、そのときはあきらめました。そこで今回は、ホント久しぶりに「ツアー」に申し込んだのです。羽田から行けるというのも魅力でした。





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 たしかに、自宅から成田まで2時間もかけて移動し、そこからまた2時間以上飛行機に乗って、着いた先はソウルではなくインチョン(仁川)。インチョンからソウルまでさらに1時間。これはなんともバカバカしい感じがします。
羽田なら自宅から1時間ほど。そこから2時間弱でもうソウルの金浦空港なのですから。近ごろは上海にも羽田から行けるのでかなり楽です。つい何年か前までは、台北へは羽田から行けたのです。それが、チャイナエアラインの便が成田発着に変わってしまったため、それもできなくなってしまいました。


でも、台北や香港、マカオ、北京や杭州など、東アジア各国・各地のような近場には羽田から行けるようにしたほうがはるかに効率的です。欧米はこれまでどおり成田からでいいでしょう。どうせその後10時間以上も飛ぶわけですから、成田までの2時間も、たいして負担には感じません。むしろ、「さあ、外国に行くぞ!」という高揚感をさらに高めてくれ、「非日常」への移動を演出するにはもってこいかもしれません。

 台北や香港、マカオなど4時間もかからないのですから、成田まで行くのは消耗感が先に立つばかりで、疲れが先に来てしまいます。それが今回はないわけですから、出発前から気持ちも軽く、これはいいなと思いました。胃にガンを抱えていてもそうでしたから、100%健康なら、もっとよかったでしょう。


 でも、飛行機に乗れば、ガンのことなどすっかり忘れてしまいました。まして、外国に出向いているわけですから、「日常」とは大きなへだたりがあり、ますますそうした意識は薄まります。これほど「非日常」を強く感じさせられた経験はなく、ガン発見よりも前に決めていた韓国ツアーですが、いつも以上に新鮮味を感じたしだい。