
何故自然に魅せられるか、この小説の冒頭から1つの答えが見出せた様な気がしている。
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この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。
世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。
きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。
でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。
大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。
たとえば、星を見るとかして。
二つの世界の呼応と調和がうまくいっていると、毎日を過ごすのはずっと楽になる。心の力をよけいなことに使う必要がなくなる。
水の味がわかり、人を怒らせることが少なくなる。
星を正しく見るのはむずかしいが、上手になればそれだけの効果があがるだろう。
星ではなく、せせらぎや、セミ時雨でもいいのだけれども。
「スティル・ライフ」池澤夏樹(中公文庫・他)冒頭より
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凄い表現だよなあ、面白い視点だよなあ。
もうこの後は吸い込まれていくだけ。
身を任せてあっという間に読んじゃいました。
山登りの後に優しくなれている自分がいたり。
自然の中に身を置くと、無心になれたり。
山登りを始めてから、物事を動物的に捉えることが多くなったり。
こういう心の変化を全て、この冒頭の文章の中に当てはめちゃうと、とっても自分が大きく成長できた様な気がする。
おもしろい。
星の様な存在が僕にとっては山だったりするんだけど、もしかしたらある特定の人だったりしてもいいわけだよな。
ここでいう、呼応と調和ってのは狙って出来るものじゃない。
じゃあ、どうやって?
そういう1つの例題がこの冒頭の文章に続く、物語に隠されているんじゃないのかなあ。