「それがそうではございませんので」
「へー、なぜだね、そうでないとは?」
「お妻太夫さんは情女いろなので」
「情女いろ? へー、誰の情女なので?」
「この鴫丸しぎまるめの情女なので」
とうとう金兵衛は吹き出してしまった、「ひどい目に逢えば逢うものだ。こんなことなら親切気を出して、声など決して掛けるのじゃアなかった」
仲間のお粂くめに逢おうという外国人 出会い、そういう約束があったがために、車屋町の隠れ家を出て、烏丸、室むろ町、新町、釜座かまんざ、西洞院にしのとういんの町々を通って、千本お屋敷とご用地との間の、露路まで急いで歩いて来たところが、そういう道々を相前後して、片耳の大きな図体ずうたいの男が、泣くような声を響かせて、「お妻さんお妻さん」と呼んでいるので、なんだか不思議な気持ちもしたし、またいじらしくも思われたところから、ついつい声をかけたところ、惚気のろけを聞かされてしまったのであった。
「が、それにしてもよくしたものだ、こんな片耳の醜男にも、情女いろがあるというのだからな」――忙しいのも打ち忘れて、金兵衛は心をノンビリとさせた。「よしよし根掘ねほって訊いてやろう」――で金兵衛は真面目まじめ顔をして訊いた。
不具者の片恋
「いずれお妻さんという女太夫さんは、美しいお方でございましょうね」
こう加工的の真面目顔をもって、金兵衛に訊かれて鴫丸という男は、相好そうごうを崩してニタニタ笑いをしたが、