「な、なんてことだ………」
そのあまりの惨状にイヅキ隊員は唖然とした様子で呟く。
今、そこは一つの戦場跡と化していた。崩れた幾つものビル。道路は穴だらけ。かつてインベーダーとの戦いで何度か目撃した廃墟が、目の前に広がっていた。そんな状況でも、おいしいケーキ屋さんは無事だったりするのだが。
なんでこんなことになったのか。
そもそもの発端は、EDFのマスコット。ソラちゃん主演の映画が完成したところから始まる。
題名は「小怪獣ソラちゃん」。
公開前なので詳しい内容を明らかにすることはできないのだが、大まかなあらすじは次の通りである。
『ある雨の日のこと。主人公の少女は、ダンボールの中で震える一匹の子怪獣を拾った。
見るに見かねて拾って帰る少女。そして、ソラと名づけられた子怪獣と少女の心温まるふれあいが始まる。
いつまでも続けばいい。そう思っていた日々は、そう長くも続かなかった。
やがて日常は非日常へと変わる。ソラちゃんを狙う謎の研究機関。そして巻き起こる激しい攻防。
そんな状況にありつつ、時にはくじけそうにならも、必死にソラちゃんを守ろうと、そして信じ続ける少女。
やがて本当の危機が訪れた時、その心が一つの奇跡を起こす―――』
……と言ったものである。
ちなみにキャッチフレーズは「言葉は通じなくても、心は繋がる」。
すでに予告編が公開された時点で、世間ではかなりの噂になっており、エリス隊員もゲスト出演しているらしい、。
まぁ、そんな経緯があり、ちょっとした祝賀パーティをひっそりと、黒フェイさん繋がりでフェイ元隊員のお店で行われることになったのだが――――
全員20歳越えているからと言うことで、お酒も出したのが間違いだった…。
あろうことか。Fさん含む女性陣のほとんどがお酒に弱かったのだ。結局他の仲間はほぼ全滅である。経過は次の通り。
まず……戦闘開始5分でソラちゃんが戦闘不能になった。原因はお酒を飲んだせいで変なスイッチの入ったエリス隊員が、飲ませ魔と化してソラちゃんに飲ませてしまったのだ。
どうやらアルコールは初めてだったらしく、そのまましばらく踊っていたが、やがてその場で眠り込んでしまった。
次の犠牲者はグレイ隊員だ。
「グレイさん、私のお酒…飲めないんですか…?」
「いや…そういうわけじゃないんだけどよ…」
ソラちゃんを撃破したエリス隊員が次に狙いを定めたのが、隣に座っていたグレイ隊員だったのだ。最初、彼は本能的に何かを察したのであろう。ささやかながらも抵抗し、エリス隊員の足止めに成功していた。だが―――
「……飲めないのだったら、飲ませてあげます」
「…んんんんっ?!」
エリス隊員の意表をついた必殺攻撃を受け、そのまま瞬殺された。急性アルコール中毒も心配だったが血圧とかもっと違う方で心配だ。でも、まぁ大丈夫だろう。グレイ隊員だから。
「おお~。もっとやれ~♪」
エリス隊員ほどではないが、やはりお酒でリミッターの壊れたフェイ元隊員が囃し立てる。
ちなみに同じくそれを見ていたイヅキ隊員は、ただただ呆然としていた。もし同じ必殺攻撃をされたら自分も間違いなく撃墜されると思ったからだ。しかし、それがどんな必殺攻撃なのかは、本人の名誉のために伏せておく。勘の良い人ならわかるかもしれないが、そっと心に留めておいてほしい。
そんなわけで戦闘開始から15分でグレイ隊員が撃墜される。
しかし、それ以上エリス隊員の魔の手によって犠牲者が増えることはなかった。次のターゲットを黒Fさんに定めたようなのだが、彼女は恐ろしくお酒に強かったのだ。
とりあえず、なんとかなったか…そう思ったのも束の間。今度はハルナ隊員がおかしくなった。
「………くすくすくす」
「…?」
「…きゃはははははははははは☆」
「…!?」
いきなり何もないのに笑い出す。どんな感じかといえば( >▽<)ノシな感じである。どうやら笑い上戸だったらしい。ただ普段感情を表に出さないだけに、なんか珍しい物を見たような錯覚である。
「…ハ、ハルナ…?」
とは言え人間、予想外の展開にはすぐに順応できないもので、イヅキ隊員はただただ戸惑うばかり。ちなみに黒Fさんは店の隅でエリス隊員に黙々とお酌をしている。
「……う、ぐす…。隊長がいじめた…」
「ぇ」
イヅキ隊員が呆然としていると、それを見て今度は泣き出すハルナ隊員。それで、さらにおろおろするイヅキ隊員。決してこういう状況に慣れてないわけではないのだが…。相手が相手なだけに苦戦気味である。
「いやいじめてないから。だから泣くのはやめような。…な?」
「……うん、わかった」
「ほっ」
なんとかなだめて落ち着かせるのに成功。しかし、これでは終わらない。
ほっとしたのも束の間。爆弾発言が待っていた。
「……暑くなったから脱ぐ」
「?!」
ぎょっとした様子で振り返ると、すでに服のすそに手をかけるハルナ隊員の姿。ちなみに、店の中は暖房が聞いていて暖かいため、厚着は誰もしていない。
「そ、それはいろんな意味でヤバイってー!?(滝汗)」
咄嗟に止めにかかるイヅキ隊員。とは言え下手なこともできない。相手は暗殺術の使い手でもあるのだ。一撃でなんとかしなければ後が怖い……!!というわけで、当身を使って眠らせた。普段だったら絶対通用しないだろうが、状況判断能力は鈍っていたおかげだろう。
「なんとかなった…か」
額の汗をぬぐう。ふと見れば―――フェイさんも酔いつぶれている。どうやら自滅してしまったらしい。
ちなみに黒Fさんは、まだ店の隅でエリス隊員に黙々とお酌をしつつ付き合っている。
もう二度とお酒は出さないようにしよう。そう密かに心に決意をするイヅキ隊員。いずれにしても、この場はしのげた。そう思いかけていたのだが――甘かった。イヅキ隊員に最大の危機が迫っていたのだ。
後編につづく
えむ’sコメント
少しはっちゃけすぎたかもしれない。でも後悔はしていない。
ちなみに、なんか長くなりそうなので二つに別けます(ぉ