―2025年7月7日 9:49―
―ニューヨーク郊外 EDFアメリカ支部ニューヨーク方面基地-
「隊長に、EDF本部から何か届いているぜ?」
「へ?」
前回から、1週間ほど過ぎたある日の事。グレイ隊員とエリス隊員が合流して、基地で待機中であったイヅキ小隊――もといイヅキ隊員の元に、一通の小包が送られてきていた。
送り主は、グレイ隊員も言っている通り、EDF本部。気になってあけて見ると、中にはカセットテープが入っていた。
そう、カセットテープである。今となってはCDやMDによって、すっかり存在感が薄れてしまったが、かつては一世を風靡していた記憶媒体。それが入っていた。
ラベルを見てみると、『イヅキ小隊へ』と書いてある。
「……なんかよくわからないけど、エリスさんとハルナを呼んで来てくれるか?」
「あぁ、了解したぜ」
「あと、カセットレコーダー持ってるか?」
「今時…持ってるやついるのか?」
「……さぁ(汗)」
その後、散々苦労に苦労を重ね、基地内に持っている人間がいなかった事から、結局街にまで出かけてカセットレコーダーを買ってくる羽目になったのはここだけの話である。
―2025年7月7日 12:24―
―EDFアメリカ支部ニューヨーク方面基地 ブリーフィングルーム-
「……それじゃあ聞くぞ?」
テープレコーダーを探し出し、ようやく聞くことが出来るようになったイヅキ小隊の面々は、基地のブリーフィングルームに集合していた。
さっそく再生ボタンをおすと、どっかで聞いたような声(総司令官)が聞こえてきた。
『おはようイヅキ君。そして小隊の諸君、元気にしているかね?』
「「………」」
最初の出だしで、どっかで聞いたフレーズだなぁ…と思うイヅキ隊員達。ただ一人、エリス隊員だけは、わからないらしく首を傾げている。
『さて、今回のミッションだが……君達の小隊には、敵の陸戦兵器ダロガを破壊せずに確保してもらいたい』
「破壊せずに確保?!」
『もちろん、ある程度のダメージはやむを得ないだろうが、破壊だけはしないでほしい』
「壊さずに捕まえろってことかよ…」
とんでもない作戦内容に思わず頭を抱えるグレイ隊員。
『なお、今回のミッションで君。もしくは君の仲間の身に何かあったら、作者と読者が困るのでそのつもりで』
「…は?」
『以上』
そこでテープが途切れた。
「…ダロガを捕獲しろって言われてもな。何か良い手はないか?」
倒すのではなく捕まえる。おそらくEDF史上前代未聞の作戦内容に、とりあえずその場を見回して尋ねるイヅキ隊員。
「下手に攻撃する壊れちゃいますからね」
そのとおり。たとえ足だけ攻撃しても、なぜか最後には爆発して跡形もなくなってしまうのだ。たぶん、機密保持か何かのため…なのだろうが。
何か良い方法はないだろうか。そんな感じで全員が頭を捻っていると、ふとそこでハルナ隊員が顔を上げた。
「……隊長」
「ん?どうした?」
ハルナ隊員は、じっとイヅキ隊員を見つめ、テープレコーダを指差した。
「……まだオチがない」
「オチ?」
その言葉に首を傾げる。オチ……一体どういう意味だろうか。何のことだかわからず、そこで悩むイヅキ隊員。すると唐突にテープレコーダーから、こんな声が聞こえた。
『なお、このテープは自動的に消滅する』
「「「!!!!」」」
―同時刻―
―EDFアメリカ支部ニューヨーク方面基地 食堂-
「……?」
その日、食堂でのんびりと食事をとっていた一人の陸戦隊員は、何か大きな音が響き、基地が僅かに振動した事に首を傾げた。
一体何があったのだろうか? もしかして、ここの開発部が、また何かやらかしたのだろうか?
少し考えるが、大した事じゃないだろうと納得し、再び食事を再開する。
とてものどかな昼下がりの事だった。
―2025年7月7日 12:30―
―EDFアメリカ支部ニューヨーク方面基地 ブリーフィングルーム(全壊)-
「本部の奴、殺す気かぁーっ!!」
瓦礫の一画が持ち上がり、大きな声で怒鳴りながらグレイ隊員が中から現れた。続けて、イヅキ隊員、ハルナ隊員と瓦礫を押しのけて、姿を現す。
「……奴だ。こんな事をするのはやつしかないない…」
普段は温厚なイヅキ隊員も、この日ばかりは少しばかりプチギレモードだ。首謀者はわかっている。
あの手の展開のお約束であるテープ消滅=爆発。だがその威力は、ちょっとやりすぎだった。スカイタートル試作β型並の規模。爆発半径20m、威力数値は800。ダメージは大したことないが、至近距離からの回避は不可能だ。
「あ~。ブリーフィングルームが壊れちゃいましたよ…?」
ブリーフィングルームは全壊。一体、ここの基地司令になんと言えば良いのだろうか…。
「隊長……」
それまで押し黙っていたハルナ隊員が、静かな声で口を開いた。いつもポーカーフェイスな彼女だが、なんだか妙なオーラを纏っているように…見える。
「……許可をください」
「……なんのだ?」
「いえ、ならいいです……」
「?」
そのまま再び口を閉ざすハルナ隊員。結局、この時はなんのことだか、さっぱりだった。
いずれにしても、こんな場所にいても仕方がない。なんだか、すごく悪い気がしたが…罪悪感はない。悪いのは、このテープを送りつけた誰かなのだ。こちらに落ち度はない。
「とりあえず、ここにいても仕方がない。司令には俺が事情を話すから、何か良い方法が思いついたら、提案してくれ」
「おぅ」
「わかりました~」
「……了解」
そんなわけで一時解散。それぞれ瓦礫を乗り越えつつ、思い思いの場所に移動を始める。
そんな時、それは起こった。
「…ひゃっ」
瓦礫に足を取られて、エリス隊員が転んだのである。ただ、それだけの事。転んだ際に頭をぶつけたコンクリートの瓦礫が、ものの見事に粉砕したについては、あえて何も言わないとして……。
「……これだ!!」
それを見たイヅキ隊員の脳裏に、何かが閃いた。
―2025年7月9日 10:40―
―アメリカ ロサンゼルス-
『……目標は予定通りポイントCを通過。…このまま誘導を続ける』
通信機の向こうから、ハルナ隊員の声が聞こえる。今、彼女はダロガを、とある場所へと誘導しているところである。
「よし、そろそろだな」
レーダーと地図を見比べつつ、全て計画どおりにいっているのをみてイヅキ隊員は一人頷いた。
数日後、ダロガ出現との報告にイヅキ小隊は現地に急行。7機のうち6機を撃破し、最後の1機を捕獲すべく、かねてより計画していた作戦を実行に移していた。
そして作戦はすでに最終フェイズと近づいている。
「エリスさん、準備は?」
「はい、いつでもいいですよ♪」
「あとは、ハルナが来るのを待つだけだな…」
「隊長、来たぜ!!」
すぐ側のビルの上から監視していたグレイ隊員が響く。見れば飛行ユニットで付かず離れず移動を続けるハルナ隊員を追いかけ、一機のダロガが歩いて来る。
「…順調だ。後はタイミングのみか」
準備が万端。あとは――――最後の一手に関わっている。
ビルの物陰から様子を伺う。次第に近づく重い足音。同時にすぐ目の前をハルナ隊員が飛び抜けていく。
「よし、いまだっ!!」
「せ~~のっ!!」
イヅキ隊員の鶴の一声で、エリス隊員が手にしていた物を思いっきり引っ張った。
道路を横断するようにして、まっすぐにピンと張られる太いワイヤー。そして、歩いてきたダロガは、それに足を引っかけて―――
見事にこけた。
あの足の構造である。一旦こけたら、もう立ち上がれない。
と言うかあれだけの重量の物体が引っかかったにもかかわらず、手離したり引きずられたりもせずに、しっかりとワイヤーを保持するエリス隊員もエリス隊員だが……(汗)
こけて転倒してしまったダロガは、もはやどうする事もできないと観念でもしたかのように、触覚ビーム砲だけをなす術もなく動かしていた。
なんていうか、イヅキ小隊の勝利である。
「よっしゃぁっ」
「やりましたね~」
「……グッジョブ」
うまくいった作戦に、その場で喜びの声をあげる小隊の面々。
しかし、そんな中……イヅキ隊員だけは、倒れたダロガを眺めつつ考えていた。
一体、ダロガを捕獲してどうするのだろう……と。
☆予告
ダロガ捕獲という快挙を成し遂げたイヅキ小隊。
アマゾン奥地で確認されたと言う、新たな巨大生物調査のため、高速輸送船でブラジルへと向かうことに。
しかし、その移動中にUFOキャリアーと遭遇。敵からの襲撃を受けてしまう。
海上であるために行動をひどく制限され、しかもUFOキャリアーが遠くにいるため、攻撃が届かない。
キャリアーさえ落とせれば…。為す術がないと思われたその時、そこに現れた男はこう告げる。
「このバゼラートを使うといい」
次回――作戦No.010【発進!!強化型バゼラート!!】
円盤型攻撃機UFOファイター・大型円盤輸送機UFOキャリアー登場!!
□えむ’sコメント□
世界観ぶち壊し第一弾。
ダロガ捕獲が、こんな方法でいいのだろうか(汗)と思いつつ、一番これが確実と思ったのは自分だけでしょうか?
ちなみに言っておくと、このダロガ。決して一部の人間の趣味とか夢とか、そんなことのために捕獲されたのではありません――たぶん(ぇ …ちゃんと真面目な目的もあるのです。一応、今後のネタのため…とだけ。