―2025年6月26日 10:08―
―東京 EDF日本支部司令部 食堂―
「………」
「………」
とても味が美味しい――特にケーキはローカロリーで絶品として有名な、日本支部食堂。そこで椅子に腰掛けたまま、グレイ隊員とエリス隊員は揃って押し黙っていた。
理由はただ一つ。前回の戦闘で、完全に足を引っ張ってしまった事だ。戦闘の時には、そういう事態も起こるのはわかっている。だが、それでも前回のアレは致命的だった。
確かに、今のイヅキ小隊には、まだペイルウイング等の対空戦闘能力の高いメンバーは来ていない。だから、当然の結果と言っても間違いでもないのだが……、それでもこのままではいけない。そんな気持ちだった。
「……やっぱさぁ。普通の陸戦兵並には対空攻撃も出来るようになってねぇとヤバイと思う」
「そうですねぇ。隊長さんとかに頼ってばかり……と言う訳にもいきませんからねぇ」
「なぁ、どうしたらいいと思う?」
「うーん。私の場合は、どうやって高いところにいる相手に取りつくか…が問題でしょうねぇ」
グレイ隊員の問いに、珍しくボケもなく答えるエリス隊員。
「そっかぁ。僕の場合は、やっぱ命中率あげるしかねぇだろうな…」
「……やっぱり、こう言う時はアレじゃないでしょうか~」
「アレ?」
おもむろにニッコリと微笑んだエリス隊員の言葉に、グレイ隊員も思わず顔をあげる。
「はい。こう言う時は、死ぬ気で特訓に限ります♪」
「…………死ぬ気でか」
何時だったか。こんな話を聞いたことがある。とある隊員が言っていたことで、「人間やればできる。特に死ぬ気でやれば出来ない事はない」とか言う言葉があるらしい。
「……そうだな。死ぬ気でやってみるか」
「でも本当に死んだら駄目ですよぉ?」
「死ぬかボケッ(汗)」
すかさず突っ込む。その間、実に0.5秒。
ともかく、そんなわけで二人はこの日から密かに特訓し始めたのだった。
―2025年6月28日 13:45―
―東京 EDF日本支部司令部 6F階段―
エリス隊員とグレイ隊員が密かに猛特訓を始めて、二日辺りが過ぎたある日。
イヅキ隊員は、司令部の階段をとんでもない速さで駆け上がっていくエリス隊員と遭遇した。
「あれ?エリスさん…?」
「ふぇ? …あ、隊長さん♪ どうかしましたか?」
「いや、最近出動がないってのもあるけど、ここんとこ見かけないなと思って」
当然である。なんと彼女は、寝る間も惜しんで猛特訓してたりするのだ。
「来るべき日に備えて、特訓してるんですよ」
「特訓?」
「はい♪ 今も階段登りの特訓中なので、失礼しますね」
イヅキ隊員の呟きに、小さく頷き…エリス隊員はそのまま階段を駆け上がっていった。
「…特訓中って……階段上りで?」
なぜ階段登りの特訓などしているのか。この時のイヅキには知る由もなかった。さらに、後で聞いた話によると……。食事等を除いて、ずっと階段を上ったり降りたりしていたらしい。だが、これがなんの役に立つのか。それは本人にしかわからない。
―2025年6月28日 18:45―
―東京 EDF日本支部司令部 食堂―
同日、夕方。イヅキ隊員は、食堂でぐったりしているグレイ隊員を見つけた。
なんていうか、行き倒れとか、もはや力尽きたとか。そいう表現がピッタリな状態である。声をかけようとしたものの……。
「―――は、はははは…。今日はなんかい死んだかなぁ、僕は…」
…と暗い笑い声を漏らしつつ呟いてたり。
「―――明日は何回死ねるかなぁ…」
…とか、なんだかひどく物騒なことを呟いているため、そのまま他人の振りをしてスルーする事にした。
言うまでもなく、彼の半径5mいないには誰も近づいていなかったのは言うまでもない。
後で聞いた所によると、訓練シミュレーターのテストに志願して、日夜データ取りを兼ねてがんばっているらしいとのことだった。
しかし、言うまでもなくイヅキ隊員には、全くその行動の意味がわからなかったのは言うまでもない。
―2025年6月30日 14:38―
―東京 EDF日本支部司令部―
それから数日が過ぎたある日。突然、基地に警報が鳴り響いた。
マザーシップが出現したのだ。これにより日本支部司令部にいた全EDF隊員に出動命令が下り、当然ながらイヅキ小隊も、現場へ向かうことになったのだった。
―2025年6月30日 15:03―
―東京 横浜ベイエリア―
それから30分ほど過ぎ、イヅキ小隊の面々も持ち場にて待機していた。その視線の先にはEDF総司令本部と同じサイズの巨大な円盤。マザーシップが静かに浮いている。
ちなみに、ジェノサイド砲だけはすでにライサンダーF装備のスナイパー部隊によって発射前に破壊されていたりする。
さすがに三度目ともなれば、そのくらいの対策は出来て当然である。と言うよりも、そうなると二度目の前大戦ではなぜ誰も手を出さなかったのかが、ひどく疑問に残るのだが。たぶん、それは突っ込んではいけないことなのだろうと言うことで黙っておく。
「…………(汗)」
まぁ、それはさておいて…。イヅキ隊員は一人ダラダラと脂汗を浮かべていた。理由は同じ部隊の二人にある。一人はなんだか疲労の極みの状態。もう一人は目の下に隈を作って憔悴しているという状態。とりあえず今日は休んだ方が良いと止めまでしたのが、二人から凄まじい気迫と同時に睨まれ、やむなく出動を許可したのはここだけの話だ。
そして、今も後ろから妙に強力なプレッシャーを感じているのだ。けれども怖くて振り返ることが出来ない。
「い、一体……何があったんだ……?(汗)」
やはり何も知らないイヅキ隊員は一人戸惑うばかり。
と、そこで突然マザーシップの下部ハッチが音を立てて開いた。同時に、後ろにいる二人がそれにいち早く反応する。
「―――ふ、ふふふふふ。来るな…」
「―――腕がなりますねぇ…」
押し殺したような暗く冷たい声。なんだか聞いただけで、背筋がぞっとして来た程だ。
そして、続けてオペレーターからの通信がはいる。
「各部隊に通達。マザーシップより多数の攻撃円盤が出現!!ただちに迎撃を行なってください!!」
「―――よっしゃぁぁぁぁっ!!」
「――さぁ、仮の時間と行きましょう~」
「え? あ・・・ちょっ!?グレイ!?エリスさん!?」
その通信が入るや否や、二人とも目の色を変えたように、まるで獲物を見つけたように駆け出した。出遅れたイヅキ隊員も、慌てて後に続く。
街の通りを掛け抜けること、約3分。UFOファイターの第一陣とすぐに遭遇。交戦状態となった。
独特のジグザグ機動で迫って来るUFOファイター。しかし、グレイ隊員はすぐさまゴリアス2を構え、迫ってきたUFOファイターを狙ってロケット弾を発射した。
全くの見当違いの場所に飛んで行ったように見えたロケット弾だったが、ほぼ同時に移動をし始めていた
UFOファイターが、まるで自分から飛び込むようにしてロケット弾の直撃を受けた。
「よ、予測射撃?!」
いつの間にそんな高等な技術を!?と驚くイヅキ隊員。どうやら訓練シミュレーターのデータ取りを手伝っていたのは、このためだったらしい。
だが、しかしだ。一体どんな訓練シミュレーターだったのだろうか。とりあえず、こんな短時間で習得できるような技術でもないはずなのだが…。そんな疑問が浮かぶも、答えはすぐにわかった。
「―――ふははははっ!!遅いっ遅すぎるっ!!あの勝つの不可能な世界の奴に比べれば、止まって見えるわぁぁぁ!!」
「……(汗)」
そう言えば聞いたことがある。最近、開発部が死ぬことを前提とした訓練シミュレーターを作っていると言う事を。どうやら、グレイ隊員はその世界での戦いの生と死の狭間で何か掴んだらしい。
なんだか、いつもと違ってちょっぴり壊れている気はするが、命中率は段違いである。(たまに外す事もあるが)
「……がんばってたんだな…」
微妙に目が逝ってる気もするが、トランス状態になってやられた隊員の話は聞かないので、とりあえず大丈夫だろうということで放っておく事にした(ォィ
そして、ここでふとエリス隊員のことを思い出した。空飛ぶ相手がグレイ隊員以上に苦手だったはずだが、そう言えばグレイ隊員と一緒に突撃していった気がする。
「………ぇ」
気になってあたりを見回して見ると、空中でUFOファイターが一気に爆発し、同時にエリス隊員が地面へ降り立っていた所だった。しかし、爆発した位置は、かなり上だ。
「………ど、どうやったんだ…?」
届かないはずの相手を落とした。その事に驚きつつ、エリス隊員の動向を見守るイヅキ隊員。なんて言うか、UFOファイターそっちの気。ま、敵は全部二人の方に行ってしまってるので、問題はないのだが。
「――――ぉぃぉぃ(汗)」
どうやっているのかは、すぐにわかった。実に単純明快な方法でもあった。
まず、ビルの中に駆け込む。そして、屋上から一気に跳躍し、ビルよりも低く飛んでいる手近なUFOファイターを上からの落下の一撃で蹴り抜いていたのだ。
なんていうか、蹴り抜いているだけでもすごいのだが、それよりも驚く事があった。
ビルに入って、屋上から跳躍するまでの時間が異常に早いのだ。計ってみた所(計ったのかい)、10階建てのビルを登るのに30秒かかっていない…。
「…………(滝脂汗)」
階段登りの特訓ってこのためだったのか。そう思うと同時に、なんだか置いていかれたような気のするイヅキ隊員であった……。
その後、マザーシップは撤退。多数の攻撃円盤も全て撃墜し、今回の作戦はたいした被害もなく無事に終わることが出来た。
そして、対空戦闘もいくらかこなせるようになったグレイ隊員とエリス隊員は作戦終了と同時に昏倒。そのまま医務室に直行となったのは言うまでもない。 ただ気絶したその顔は、実に嬉しそうだったが。
☆予告
四人目の仲間と合流するため、一足先にアメリカへと向かったイヅキ隊員。
だが合流前に市街地に敵の陸戦兵器出現したため、イヅキ隊員も迎撃に駆り出されてしまう。
そして、その戦場で彼は四人目の仲間と出会うことになるのだった。
次回――作戦No.008【フツーのペイルウイング?】
四足歩行型陸戦兵器「ダロガ」登場!!
□えむ’sコメント□
なんて言うか、疲労の極みに達したり、精神的限界を超えると、人って性格が変わりそうな気がします。たぶん、今回のグレイとエリス隊員は、良い例かと。
そして、ちょっとだけレベルアップしたわけですが…。いかんなぁ、よくある事とは言え、主人公のイヅキの存在感がどんどん薄くなっていく…(汗
なんとかせねば―――