1967年(昭和42年)出版された宮崎康平著『まぼろしの邪馬台国』は当時、空前のベストセラーとなり、「邪馬台国ブーム」を巻き起こしたという。
驚くべきことに著者の宮崎は全盲であり、その研究・実地踏査・口述執筆はすべて、妻の宮崎和子が夫の眼となり杖となって二人三脚で成し遂げたものであった。
第1回吉川英治文化賞を受賞したこの作品をもとに、宮崎夫妻の足跡を描いたのが、2008年公開の映画『まぼろしの邪馬台国』である。
60代初めの吉永小百合が、宮崎和子を好演している。
監督:堤幸彦 脚本:大石静 音楽:大島ミチル
出演:吉永小百合 竹中直人 窪塚洋介 風間トオル 平田満 柳原可奈子
島原鉄道の社長宮崎康平(竹中直人)は全盲だが、きわめてワンマンで傍若無人な人物である。
一方、人情に厚く、地元の人々からは慕われている。
彼がラジオ番組に出演し、独自の邪馬台国論に熱弁を振るうが、その聴き手であったアナウンサーが、のちに妻となる和子(吉永小百合)である。
局との契約更新が切れて目標を失った和子は、宮崎の誘いに応じて軽い気持ちで島原を訪ねる。
しかし、独断専行の宮崎のことばのまま、観光バスガイドの教育係を務めることになる。
あまりに横暴な宮崎に愛想をつかした前妻は、幼い息子と乳飲み子の娘を置いて出奔しており、和子は宮崎の家庭の面倒も見つつ、バスガイドの一期生を育てる。
しかし、島原を襲った歴史的な集中豪雨で島原鉄道の線路は随所で流され、会社は経営難に陥る。
それでも復旧工事より発掘調査を優先する宮崎は、経営層の造反で社長の座を追われる。
地位も収入も失ったが自由の身となった宮崎は、和子に手伝わせて邪馬台国研究に没頭していく――。
今回は原作を読む前に映画を観終えたが、前半、蒸気機関車が轟音を立てて走る島原鉄道や島原を襲った豪雨災害の場面などが、CGを駆使して迫力満点に描かれている。
そして後半、邪馬台国の在処を求めて夫婦で歩く古墳地帯の田園、有明海の干潟など、九州各地の風景が四季折々の風貌を見せて、息を呑むほどに美しい。
そうした映像美を背景に描かれる、夫婦の絆。
宮崎浩平は天才であるが、ゆえにその行動はあまりにも独善的で身勝手すぎる。
それに耐え、ひたすら献身的に尽くした妻和子の愛が、天才的偉業を結実させたのだ。
こんな夫婦関係、今では考えられない。
しかし、ときには和子が夫の態度に怒ってストライキを起こし、何日も口をきかずに、康平がオロオロする……という場面もあって微笑ましい。
実は和子は部屋に籠って、康平が手で触れるための立体地図をひたすら作っていたのだ……、というところにまた愛情があふれている。
そうした長年の努力がやがて実を結び、上梓された康平の著書はベストセラーとなる。
世間の賞賛と妻への感謝、そして、康平の死までが描かれる。
映画を満足して観終え、原作となった著書を開いてみた。
文庫本だが、文字がひじょうに小さく、400ページあまりある。
大著をコンパクトな1冊に無理やり収めようと苦心したようだ。
随筆のような文章で、古代史に関する独自の見解とともに、夫婦で歩んできた研究の様子を語っている。
読みにくい本ではないが、これを読破するのは難儀な話で、ところどころ拾い読みするのが精いっぱいである。
これがベストセラーになるのだから、昭和40年代当時の人々の読書欲と読解能力は、今よりはるかに高かったことが推察される。
話は映画に戻るが、制作陣は既に過去のものとなったこの著書に再び注目し、行間から浮かび上がる宮崎康平という人物とその妻の物語を、想像力を駆使してリアルに描き出した。
鮮やかなCGと実写の映像美を背景に、竹中直人と吉永小百合は、ともに力を合わせて歩んだ夫婦の歳月を見事に演じている。
観て損はない映画である。

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