人間の健康への影響は?
私たち人間の健康への影響が心配です。その影響には直接的なものと間接的なものがあります。直接的な影響としては、1日の最高気温が30℃を超える暑い日(真夏日)が続くような熱波の発生によって、熱中症患者が増加します。たとえば東京では、日最高気温が30℃以上になると熱中症患者が発生し、35℃を超えると急に増加することが、救急車の搬送数からわかります。
 間接的な影響としては、マラリアやデング熱などの感染症が北上し、西南日本も潜在的な感染地域に入る可能性があります。マラリアやデング熱は、マラリア原虫などの病原体、媒介する蚊、人が適度な密度でいる環境で発生します。衛生状態の良い日本では、このような環境になったとしても、すぐには発生しないかもしれません。しかし、1999年にアメリカのニューヨークで発生した西ナイルウイルスは、2002年にはアメリカ全土に拡大し、死者も多く出ました。こうした感染症の拡大は温暖化だけが原因ではありませんが、突然発生する危険性があることがわかります。

みんなで守ろう地球環境-日最高気温と 熱中症患者搬送数
みんなで守ろう地球環境-温暖化の 健康への影響
海面が上昇すると
どんな影響が出てきますか

温暖化が進むと、海水温の上昇にともなって海水が膨張します。また、山岳の氷河が融けだして海に流入するため、海水面が上昇します。この100年間で、世界で平均して17cm海面が上昇したことが観測されているのです。
 とくに小さな島々からなる国や沿岸の低地では、土地が減少するなどの影響が現れるでしょう。サンゴ礁や環礁からなる島国は標高が低く(たとえば、モルジブのマレでは1~2m)、わずかな海面上昇でも被害を受けます。また、バングラデシュや東南アジアの沿岸低地では、海面上昇にサイクロンや台風による高潮が重なると深刻な被害に見舞われるおそれがあります。
 先進国・途上国を問わず、沿岸低地は急速に都市化が進んでいます。人口増によって、台風・サイクロンなどの被害者の数も多くなっています。2080年までに約40cm海水面が上昇するという条件を用いた予測によれば、沿岸洪水による被害リスク人口は、数倍(適応策により異なるが7500万人~2億人)増加すると予測されています。
 日本の海岸ではどのような影響が出るでしょうか。海面が1m上昇すると、自然の砂浜の約90%が消失してしまいます。海面上昇に高潮が加わると、浸水被害も増えてきます。

みんなで守ろう地球環境-都道府県別 海面上昇による海岸 浸食面積の割合
みんなで守ろう地球環境-沿岸洪水による 被害リスク人口
乾燥化による水不足と洪水の増加

温暖化は、降水の量や地域的な降水パターンを変化させます。温暖化が進むと、中央アジア、地中海沿岸、南アフリカ、オーストラリアでは降水量が減少し、乾燥化が進みます。その結果、深刻な水不足がおこるでしょう。
 水不足に悩む人々は、現在でも世界中で17億人にもなります。2025年には50億人に達すると予測されています。途上国では、水不足によって経済発展が阻害される可能性も大きいでしょう。水資源の問題については、2002年のヨハネスブルクサミットでも懸案事項の1つとして大きく取り上げられました。 
 一方、中緯度地域や東南アジアでは、降水量が増加すると予測されます。世界の河川流量の変化を予測した左の図でもそれがわかります。とくにダムや貯水設備の貧弱な東南アジア諸国では、洪水による被害が心配されています。      
 また、温暖化すると冬季の雪が雨に変わり、これまでは春の雪解け時に流出していた河川流量のピークが冬にシフトします。事実、アメリカではこうした流量ピークのシフトが観測されています。
 日本では、積雪の減少が予測されています。北陸、東北、北海道などの豪雪地帯が減少すると、水資源や自然生態系に影響が現れるのではないかと懸念されています。

$みんなで守ろう地球環境-河川流量の変化
農作物の収量は変わるのでしょうか

温暖化をもたらす大きな要因は大気中の二酸化炭素などの増加です。これは、植物にとって光合成を活発にし、生長を促すという効果もあります。たとえば、 2~3℃ぐらいの気温上昇では、中緯度地域での農作物の収量(単位面積当たりの生産量)は増え、それ以上の気温上昇では減ると予測されています。温暖化の初期には、シベリアやカナダなどでは、穀物が栽培できる地域が拡大するでしょう。
 しかし、熱帯域は現在でも高温下にあり、イネなどに高温障害が出るぎりぎりの気温下で栽培されていることがあります。気温が上がると、高温障害や水不足により、生産量が減少するおそれがあります。
日本では、米の生産地が北へシフトします。しかし、品種を変えたり、耕作時期をずらすことで、米の収量はわずかな減少で止められるでしょう。小麦の生産量への影響はどうでしょうか。アメリカなどの主要な産地では収穫量が大幅に減少しますが、涼しい季節に栽培期間をずらしたり、高温に強い品種を使うことによって、収穫量を確保することができると予測されています。
 果樹への影響も報告されています。リンゴや桃などの果樹は、温暖化にともなって品質が落ちたりしています。温暖化がさらに進むと、品質の劣化がさらに進む一方、栽培の適地が北へシフトすると予測されます。たとえば、リンゴの主産地が北海道になるかもしれません。
 農作物の収量が減少すると、貿易を通じた食料供給が滞り、市場価格が上昇します。そうなると、食料を買えない途上国は食料不足に陥り、最悪の場合には飢饉が発生するのではないかと危惧されています。
 日本の食料自給率はカロリーベースでわずか40%程度です。食料輸出国での収穫量が減れば、国際市場を通して食料不足が発生する可能性があります。日本だけではなく、とくにアジアでは一部の国で食料の自給率が下がっています。今後は、温暖化の影響も念頭においた食料安全保障が重要な課題となるでしょう。
みんなで守ろう地球環境-小麦の収量の変化
みんなで守ろう地球環境-米の収量の変化
水生生態系への影響は?

湖沼や河川などの水生生態系については、高緯度地域で温暖化の影響が大きくなります。気温と水温の上昇にともなって、生物の成長が促進され、生産性は増 大、冷水種の生息範囲が拡大します。しかし、寒水種-冷水種の成育限界では、気温が上昇するために種の消失が増えると予測されます。たとえば、 北海道の山岳地帯に分布するオショロコマ (サケ科) は、水温が1℃上昇すると生存率が72.4%に、4℃では10.4% に落ちてしまいます。
 また、温暖化によって降水量が変化すると、河川流量や湖沼水位の変動が大きくなります。大規模な洪水や渇水の発生状況 (頻度と継続期間) の変化は、水質の悪化を招き、生物の生産性を低下させ、河川の水中生息域を狭めてしまいます。霞ヶ浦での気象と水質モニタリング調査によると、水温が1 ℃上昇するとCOD(chemical oxygen demand、化学的酸素要求量) は約1ppm上昇すると推定されています。

詳細解説

COD 化学的酸素要求量

強力な酸化剤である過マンガン酸カリウムや重クロム酸カリウムを用いて、試料の水を処理したときに消費される酸化剤の量を、それに対応する酸素の量に換算 した値で、水中に含まれる酸化される物質の量を示します。酸化される物質の主要なものは有機物なので、CODは有機物量の尺度とされています。わが国では 過マンガン酸カリウムによるCODが採用されています。

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日本の生態系に現れてきた大きな変化

近年、森に住むニホンジカ、ニホンザル、イノシシなどの大型哺乳動物の生息分布域が拡大しています。これは、温暖化によって積雪量が減少したり降雪期間が短くなり、野生動物の生存率が高くなったことも一因と考えられています。一方で、野生動物による作物被害が多発するようになり、人間社会との摩擦も増えてきました。
 日本の生態系に現れているさまざまな変化を、左の表にまとめてみました。
また、高山植物への影響を示すものとして、北海道のアポイ岳に咲く希少種ヒダカソウの減少を紹介します。ヒダカソウの生息地の山麓側にはハイマツが生えていますが、温暖化の進行にともなうハイマツの上昇が観察されています。このままでは、30年後にはヒダカソウが消滅する可能性もあります。

みんなで守ろう地球環境-アポイ岳の ヒダカソウ
みんなで守ろう地球環境-日本の生態系に 現れている 温暖化の影響
日本の森はどうなるのでしょうか

日本は南北約2000kmに長く伸びた列島です。そのため、北の亜寒帯から南の亜熱帯に至る多様な気候帯をもち、森林植生も北の針葉樹林帯(エゾマツ、シラビソなど)から南の亜熱帯林(ヤシ、タコノキなど)まで、多様性に富んでいるのが特徴です。
 平均気温が3~4℃上昇したとき、日本の森林はどう変化するでしょうか?それを示したのが左の図です。わが国に広く分布するブナ林(落葉広葉樹林)は冷温帯の代表的な森林です。保水力が高く、大型動物の住みかでもあり、最も豊かな自然生態系をつくっています。約4℃気温が上昇すると、このブナ林の約 90%が消失すると予測されています。また、現在の日本の森林は人工林が40%以上になっています。温暖化すると、スギやヒノキの造林地の環境がブナ帯からシイ・カシ帯(常緑広葉樹林)に移り、造林地で競争する樹種が常緑樹に変わると予測されています。

$みんなで守ろう地球環境-日本の 植生分布の変化
世界の植生分布が変化

 陸上の植物は、温暖化の影響をどのように受けるのでしょうか。南限や北限といった成長限界が高緯度方向に、高山・山岳地帯ではより高い場所に移動するため、植生の種構成が変化すると予測されます。
 温暖化にうまく適応できる植物もあるでしょうが、ほとんどは温暖化に追いつくことができません。森林を構成する樹木の移動速度は4~200km/100年のオーダーであるのに対して、温暖化はもっと速い速度で進むと見積もられているからです。
 在来種が適応できない地域では、より適応力のある植生に取ってかわられ、たとえば外来種の進入といった影響が予測されます。