息子がドイツの保育園に通い始めてしばらくたった頃です。週末、自由な時間ができると、息子をどうやって喜ばせようかと、そればっかりを考えていた時期がありました。初めて「カスパーシアター」に出会ったのもその頃です。たまたま出かけた展示会の片隅に人形劇の舞台が据えてありました。立て札には
カスパーシアター 10:00, 12:00, 14:00
とあります。舞台前に並んだ長ベンチはもう子ども達でいっぱいです。つめてもらった子ども達の間に息子をちょこんと置いて、後ろから見守っていました。
子ども達が待ちくたびれてたまらなくなった頃、やっと、トゥリ、トゥリ、トゥラララ♪と歌を口ずさみながら、パペットが現れました。とんがり帽子にとんがり鼻。そのパペットが子ども達に話しかけると、子ども達がわれ先にと大きな声で応えます。その後、いくつか人形劇を観ていくうちにおかしく思ったことがありました。違うストーリーなのに、なぜか主人公が毎回同じなのです。そう、例のとんがり帽子のとんがり鼻(カスパー)なのです。不思議に思って、ドイツ人の友人にたずねると、「だって、カスパーシアターにはカスパーだよ」とますますチンプンカンプンな返事。カスパーが登場するから「カスパーシアター」なのか、「人形劇」=「カスパーシアター」なのか???
いずれにしても、子ども向けに上演される劇の大半がカスパー劇であることは歴然だったので、「カスパーシアター」という呼称があっても当然だと理解することにしました。子ども達もただただカスパーがでてくれば満足で、聞き慣れたトゥリ、トゥリ、トゥラララのメロディーが聞こえてくると、ほおを紅潮させて舞台に釘付け。主人公が泥棒や魔女に捕まりそうになる度に、必死に声援を送ります。
この子ども達とのやりとりというのがカスパーシアターの特徴でもあり人形使いの腕の見せ所なのでしょう。主人公は子ども達からのかけ声にアドリブで応えて行きます。子ども達と一緒に悪戯を考えます。子ども達は、登場人物と五感を共有しながら、お話を一緒に体験するのです。冒険好きでひょうきんなお兄ちゃん的存在のカスパーは子ども達の道先案内人、間違いや失敗を繰り返し、危ない目に遭いながらも最後はなんとか目標に達します。相手役の大泥棒ホッツェンプロッツは近所のガキ大将さながら。悪者なのに憎めない、子ども達の人気者です。
その後、カスパー劇以外の「人形劇」を観る機会もあり、(当然ですが)カスパー劇ではないパペットシアターがあることも知りました。芸術的完成度の高い人形劇もあれば、オーケストラのライブ演奏付の人形劇、警察官が登場するパペット交通教室もありました。観客、場所、季節により、いろんな種類のパペットシアターがあります。今では、息子も大きくなり、人形劇に接する機会も少なくなりました。でも今でも、街角でカスパーを見かけるたびに「頑張って、子ども達をいっぱい喜ばせてね。」とつい心の中で声援を送ってしまいます。
ドイツのハンドパペット、グリム童話や児童文学作家プロイスラーについて
→ ハンドパペットと人形劇で楽しく育児・保育・教育~ドイツ発ケルザ

