●御茶ノ水・聖橋から神田明神の歴史を歩く
江戸風情と歴史を訪ねながら、JR御茶ノ水駅から神田明神までの散歩にでかけてみました。
JR御茶ノ水駅の聖橋口を出ると、駅の南側に尖塔が印象的な日本ハリストス正教会のニコライ堂があり、改修中の神田川の深い谷にかかるアーチ橋を渡ります。橋を渡ると東京医科歯科大学があり、本郷通りを挟んで向かい側に「湯島聖堂」があります。ニコライ堂と湯島聖堂、ふたつの聖堂を結ぶ橋ということで「聖橋」と呼ばれています。
湯島聖堂は、元禄3(1690)年に徳川五代将軍綱吉が、儒学の振興を図る目的で、上野忍岡にあった林羅山の儒学校と孔子廟を当地に移して創建したものです。その後、寛政9年(1797)年には、幕府直轄の学校として、有名な「昌平坂学問所(昌平黌)」となり、明治維新を迎えると明治新政府が所管し、明治4(1871)年には文部省が置かれ、その後も東京師範学校、書籍館(日本初の図書館)、東京女子師範学校、高等師範学校などの礎となったことから「近代教育発祥の地」とも言われています。本郷通りをさらに進んだところにある学問の神様・菅原道真を祀る湯島天神社と同様に、受験生の学業成就、合格祈願の絵馬が奉納されていたりします。
聖橋 湯島聖堂
聖堂の東門を出るとそこは「昌平坂」と呼ばれる坂道があり、坂道を登り左に曲がるとすぐに神田明神社の鳥居が見えます。
神田明神(神田神社)は、いわずと知れた江戸の総鎮守としてその祭礼である神田祭(5月)は、かつて天下祭とよばれ江戸城下で最大の祭りで、現在も多くの神輿や山車が繰り出し、都心にあることもあってか、正月明けの仕事始めの日など都内でも屈指の数の参拝客で賑わっています。
本殿の橫に回り込むと、銭形平次の大きな碑が建っています。ご存じ野村胡堂の小説『銭形平次捕物控』の主人公は、この神田明神下の長屋に住んでいたという設定でした。主人公・銭形平次は、恋女房のお静、子分のガラッ八こと八五郎が、お江戸八百八町で起こる様々な事件を投げ銭を駆使して犯人を捕まえるという人気の捕物帳ものです。
昭和6(1931)年に『オール読物』の創刊にあたって連載が開始され、その後映画では長谷川一夫、テレビでは大川橋蔵が演じて1966年から84年の18年間にわたり、計888回も放映された人気時代劇となりました。その後、87年には風間杜夫主演で、さらに91年から98年にかけて北大路欣也主演など、繰り返し映像化されているので、世代ごとに平次のイメージは違うのかも知れません。
昨年亡くなったマンガ家モンキー・パンチ作の『ルパン三世』は、M・ルブランの小説の主人公怪盗アルセーヌ・ルパンの子孫であるルパン三世を追いかけるのは平次の子孫である銭形警部といういわばパロディ的なキャラクターですが、こちらもアニメ・映画などが繰り返し製作されており、銭形平次は国民的ヒーローです。
ちなみに野村胡堂が連載を始めた頃には、日本のシャーロック・ホームズともいわれ捕物帖・探偵小説の先駆けとなった岡本綺堂の『半七捕物帳』が人気を博しており、主人公の半七の妹がこの神田明神下で常磐津の師匠をしているという設定で、しばしば小説に登場しています。
●江戸時代の土室で熟成された麹と米でつくる「明神甘酒」
神田明神社の鳥居の橫に江戸後期の弘化3(1846)年から続く甘酒製造・販売の老舗「天野屋」があります。
ここの売店に併設されたおやすみ処では、甘酒をはじめ同店で手作りするくず餅や安倍川餅などの甘味が楽しめます。米と麹だけでつくる天野屋の甘酒は、同店の地下6メートルにある糀室から取り出される糀をもとに、昔ながらの製法を守ってつくられています。米を1日水に漬けて蒸し、それを冷まして糀菌を植え付け、さらに手入れを加えて約20時間かけて糀をつくって、そこに米をまぜて約60度の温度でさらに10時間発酵させ熟成を待って完成するという手間暇のかかった逸品です。添加物を一切使わない甘酒は、自然な甘みのまろやかな味。
通常家庭などでつくる場合には、酒粕などをつかって砂糖を混ぜてつくることが多いと思いますが、天然の糀と米だけでこの甘みが出ることに感動します。
個人的には、甘酒は冬の飲みものだと思い込んでいましたが、甘酒の歴史を調べてみると、むしろ夏の飲みものとして江戸から明治にかけて親しまれていたようです。そのうえ甘酒は夏の季語なのです。『俳句歳時記』(角川学芸文庫)によれば、「発酵に六~七時間かけることから一夜酒ともいうが、アルコール分はほとんどない。かつては暑気払いによく飲まれた、江戸時代には真鍮の釜を据えた箱をかついだ甘酒売が売り歩いた」とあります。
砂糖などが貴重だった時代には、米と麹からつくられる甘酒は天然の甘みとして重宝され、ミネラルやブドウ糖、必須アミノ酸などを豊富に含んでいることから、暑い夏場のエネルギー補給に用いられたということです。
天野屋では、夏には冷やした甘酒なども提供してくれますが、これから年末、初詣にむけて、温かい江戸から続く、伝統の甘酒は、神田明神のお参り、散歩の休憩に甘酒は最適。
休憩のあとは、湯島天神からさらに足をのばして御徒町・上野アメ横まで歩くとしましょう。






