
現在、「ヤングアニマル」で連載中の人気ギャグ漫画を映像化した本作。
おしゃれなポップスの歌手を目指して田舎から上京したが、
デスメタル・バンドのカリスマ・ボーカリストに
仕立て上げられてしまった青年の切なさと可笑しさの
入り混じったコメディだ。
人間の、滑稽なほどに真剣な姿ほど、面白いものはない。
苦悩すればするほど、間違った方向に進んでしまう様は
爆笑モノである。
主人公・根岸は、純朴で繊細。
代官山やおしゃれカフェを好み、
お気に入りの歌手はカヒミ・カリィやカジヒデキなど、
渋谷系と言われるおしゃれポップス。
髪型はいつもマッシュルーム・カットで決めている。
そんな彼が、所属したレコード会社の社長の手によって、
デスメタル・バンド「デトロイト・メタル・シティ」の
ボーカルで悪魔系メイクのヨハネ・クラウザーII世として
デビューさせられてしまう。
楽屋では、「こんなことやりたくなかったのに…」
と愚痴をこぼしているが、ステージに上がると
驚くほどの変貌ぶりで様々な感情を大爆発させ、
狂気の過激パフォーマンスで観客を魅了。
意に反してクラウザーは瞬く間にカリスマとなっていく。
それでも素顔の根岸は、自作のポップスで
ストリート・ミュージシャンとして活動を続ける。
しかし自作のラブソングを甘く歌い上げる
ちょっと勘違い系のため、足を止める人はいない。
クラウザーとしてなら求められる以上の才能を発揮してしまえるのに、
ポップスの歌手としては全くパッとせず、
アマチュア・ミュージシャンから抜け出せないほどの才能しか出てこない。
根岸の夢と現実のギャップは極端すぎるからこそ面白いのだが、
その狭間で苦悩する姿は、きっと誰もが共感できるものだ。
どんな夢も、理想的であればあるほど、
全くその理想どおりにはならないのが世の常。
彼も“ミュージシャンになる”という意味では
夢を実現しているのだから。
多かれ少なかれ、私たちは夢と現実の折り合いを付けながら生きていく。
そんな誰もが持つ心の葛藤を描き、
ただのギャグ漫画に終わらないところが原作のストーリーの魅力だ。
そんな漫画が映画になった…
それはまさに夢と現実のギャップを象徴しているかのようである。
自分の大好きな漫画や小説を「実写で観てみたい!」
という妄想はよくあることだけれど、
それが次々と実現されてしまうという恵まれた時代であることに、
ある種の虚しさも感じてしまう。
この漫画の映画化は、そんな矛盾をも大いに感じさせてくれた。
映画化に当たって、物語も衣装もキャラクターもほぼ忠実に再現され、
映画としての完成度は高い。
同じく漫画原作の『デスノート』で評価を得た松山ケンイチが
演じ分けたクラウザー×根岸も、間違いなく観客の目を楽しませてくれる。
漫画の中では聴こえない楽曲がリアルに耳に響いてくるのも
ファンには堪らない瞬間だろう。
このひとときは、あらゆる矛盾や葛藤を忘れ、
それを笑い飛ばし、ストレス解消させてもらおう。