ポーランドの鬼才、アンジェイ・ズラウスキー監督のカルト的ホラー映画『ポゼッション』がリメイクされるだと!?
『ポゼッション』と言えば、同じくポーランドの重鎮アンジェイ・ワイダ監督の下で助監督を務めた鬼才、アンジェイ・ズラウスキー監督、サム・ニール、そしてイザベル・アジャーニ主演で、カルト的な人気を誇る不条理ホラー映画の怪作だけれど、この度『SMILE スマイル』の監督パーカー・フィンと、出演するか否かは今のところ不明だが、ロバート・パティンソンが共同プロデュースを務める形でリメイクされるらしい。
これはえらいこっちゃで!
ということで。
イザベル・アジャーニの怪演が光るカルトホラー映画『ポゼッション』のレビュー/感想/考察!
その前に『SMILE スマイル』観てみなきゃ。
いやその前に書くけど。
ポゼッション
原題:Possession
ジャンル:ホラー/ミステリー/サスペンス
制作:フランス、西ドイツ(1981年)
監督・脚本:アンジェイ・ズラウスキー
撮影:ブリュノ・ニュイッテン
キャスト:サム・ニール、イザベル・アジャーニ、and more…
カンヌ国際映画祭パルム・ドールノミネート、主演女優賞:イザベル・アジャーニ
ポゼッションのざっくりあらすじ
国家機密を扱う潜入捜査官っぽい夫のマルク(サム・ニール)が、長い単身赴任を終えて西ドイツ郊外のベルリンの壁がすぐそこに見える自宅に帰ってみたら、何やら妻アンナ(イザベル・アジャーニ)の様子がおかしい。これはどうやら不貞を働いておるな?アンナの心を取り戻さなければ!ってなるマルクだったが、アンナはどんどん何かに取り憑かれるようにおかしくなっていき、次第にマルクもおかしくなっていき、探偵なんぞを雇ってアンナを尾行させてみたところ、そこにはなんじゃこりゃあぁぁぁ!
っていう、不条理極まりないホラー。多分ホラー。じゃなかったらダークファンタジー。
アンジェイ・ズラウスキー監督は、『肉体は魂を入れる器である』という、プラトンの『肉体は魂の牢獄』だか、『ブレードランナー』だか、『攻殻機動隊』だか、『マトリックス』だか、デカルトの『実体二元論』だかといった思想哲学、或いは宗教に影響を受けているらしい。
映画『ポゼッション』の感想/レビュー/考察
何度観てもイザベル・アジャーニが美しすぎると同時に、その美貌が嘘みたいになる超絶憑依型の怪演に吃驚である!
時に悪魔、時に天使、時に子供、時に獣のようになるわけだが、どの演技をとっても凄まじい。特に地下鉄の通路のようなところで、狂気に取り憑かれて乱舞し(狂喜乱舞ではなくこれは狂気乱舞)、奇声を発しながら、口から何かを吐き出し、身体からも何かが漏れ出しているシーンは圧巻の一言であり、開いた口が塞がらないとはまさにこのことである。
サム・ニールも凄い演技をしているはずなのだけれど、はっきり言って余裕で霞んでいる。
また、そのイザベル・アジャーニの美しさと素晴らしい演技をしっかりとらえ、更に難解極まるこの映画に観客を引き込ませるカメラワークも素晴らしい。人物の周りをぐるぐる回って陶酔させにきたり、上記イザベル・アジャーニが狂気乱舞する怪演シーン(全部怪演なんだけど)に至っては、イザベル・アジャーニを追っただけの長回しである。
この映画、アンナとそっくりのヘレン(イザベル・アジャーニの一人二役)という女性を筆頭に、ドッペルゲンガー的な要素が含まれますが、肉体と魂、ベルリンの壁を隔てた東と西、善と悪といったようなことを、監督が影響を受けている『肉体は魂を入れる器である』といった思想哲学を下地に、難解ではあるけれど象徴的に描いている映画です。ドッペルゲンガー的そっくりさんは、欲望と願望が虚妄として具現化された存在です。(多分)
例えば善悪を二元論的に考えていった先で、肉体を離れた善と悪の魂があったとして、悪の方はマルク視点の場合、子供を放置して他の男とのセックスという快楽に耽り、終いには妄想の中だかでこの世のものとは思えない、まるで性のメタファーのような悍ましい怪物を生み出してしまって、その怪物ともまぐわってしまうアンナが悪なんだろうけど、アンナからすれば国家機密だかなんだかの潜入捜査官という大層な仕事を言い訳に、家を空けて子育ては妻に任せきり、満足な肉体的及び精神的な結びつきもままならない上に、束縛も嫉妬もきついマルクが悪である。そもそも映画冒頭、アンナがの様子がおかしくなる前から、マルクはアンナに対して非常に尊大な態度をとっており、悪びれるでもない。アンナ一人がおかしいわけではないのです。というか、登場人物全員、どこかが、何かがおかしい。それどころか、こんな映画を作るやつも観るやつもおかしい!そして、異形の怪物の最終形態は、マルクのそっくりさんである。それがアンナの理想像である。つまり、アンナもマルクを愛してはいたというこである。
ほんでなんで靴下ピンクやねん!
じゃあそもそもそんなことになってしまう原因は何やねん?ってなったら、ベルリンの壁が象徴しているように東西の分裂であったり、宗教的や哲学、そもそもドグマティズムに基づく価値観の相違であったり、掘り下げて考えて行くと、性善説とか性悪説とかって話になりそうだし、どこまでも掘り下げられると思いますが、多分そんな感じで観る映画なんだと思う。 要するに掘り下げて掘り下げて一つの真理探究をしようとする哲学的な映画なんですね。
更にPossession(ポゼッション)という言葉は、ポゼッションサッカーとかポゼッション率とかいうように、占有、占領、占拠という意味があります。つまり、この映画においては悪魔的何かに取り憑かれて心だか魂が占有されるということなのですが、Possessionには更に、憑依という意味もあります。イザベル・アジャーニの憑依型の演技もあって興味深いタイトルですね。
映画『ポゼッション』の総評
個人的にはイザベル・アジャーニの美貌及び怪演と、異様な雰囲気を堪能できるだけで素晴らしい映画なんだけれど、だからこそ目も心も其方に奪われがち。
色んな多角的な視点から俯瞰的に観ないと映画で何を伝えようととしているのかが見えてこず、そうすると難解で複雑で訳のわからない映画だったで終わってしまう可能性が大いにある。
それだけではなく、そもそも扱っている一つの大きなテーマが不倫であるため、胸糞な展開もあるし、変な生き物でてくるし、観る人を確実に選ぶ作品でもあると思う。ということで…
星4.5!