●大発見エオドロマエウス!
はるか地球の裏側に位置するアルゼンチンから、2005年6月、日本にやってきたサンファン国立大学自然科学博物館の研究者リカルド・マルティネス。3泊4日の短い滞在でしたが、リカルドとは1996年にサンファン州イスチグアラストで発掘を共にして以来だから、約10年ぶりの再会です。
なつかしい発掘の思い出がよみがえってきました。土地を知りつくし、獲物を知りつくした猟師の勘のようなものをもつリカルド。彼はイスチグアラストで、原始的な雑食恐竜エオラプトルやパンファギアの模式標本を見つけています。まさに筋金(すじがね)入りの化石ハンターです。そして1996年10月10日、運命のあの日、発掘サイトを「The Mate Jim’s graveyard(相棒ジムの墓)」と呼んでいる地帯にしようと定めたのも彼でした。
その日、私は丘の斜面を掘っていて、一つの小さな脊椎骨を見つけました。急いでリカルドを呼びます。十数メートルほど離れた所で、「エオラプトルを見つけた」と一心不乱に発掘している彼を連れてくるのは至難の業でした。
しぶしぶ彼はやってきます。しかし、その脊椎骨を見た時、彼の表情は一変しました。岩肌をなでると、次から次へとつながったままの脊椎骨が出てきます。やがて大腿骨、その付け根からは骨盤……。刻一刻と露わになってゆく骨格から、目を離すことはできませんでした。「エオラプトルだ」とリカルドは言いました。様子を見にきた同博物館のオスカル・アルコベール館長も、やはり同じ意見。私たちは「この発掘で、2体もエオラプトルを掘り当てた!」と喜びました。
ところが2005年、事前に来日を知らせるリカルドのメールには、私をびっくりさせることが書いてありました。1996年の発掘で私たちが見つけたエオラプトルのような化石は、どちらもエオラプトルとは別の新種の恐竜だとわかったというのです。ややこしいので便宜上、私たちはその恐竜を“エリコラプトル”と呼びました。なんだかエリコ(私)がラプトル(盗人)みたいで、他にいい愛称はないものかと思いましたが、詳しくは会ってからのお楽しみということになりました。
ひさしぶりに会ったリカルドは、ちょっと恰幅(かっぷく)がよくなって髪が伸びた以外、さほど変わっていませんでした。会う早々、私は手ぐすねを引いたようにリカルドを質問ぜめにします。もちろん、話題は通称エリコラプトルです。「まだ研究途中だが、エリコラプトルはエオラプトルよりも長い首をもち、その首の骨には鳥のもつ“気のう”のように、空気が通る空洞の孔が開いている。エオラプトルよりも細長い後ろ脚は、太ももの骨よりスネの骨のほうが長く、エリコラプトルの足が速かったことを意味している」という彼の話を、わくわくしながら聞きました。
この通称エリコラプトルこそ、リカルドたちが後に“エオドロマエウス”と名づけた恐竜です。この名前が公表されたのは、2011年1月14日。「南米アルゼンチンから新種の恐竜エオドロマエウスが見つかった」というニュースは、世界中を駆けめぐりました。アメリカの科学誌「Science」(サイエンス)への発表によると、最も原始的な獣脚類とされています。
「長かった!」の一言でした。ひたすら、この日を待ちわびていました。「これでようやく、念願の『三つの天窓』が発表できる」と思いました。なぜなら、この本の第2章には、エオドロマエウスの発見談が書かれています。無事、この恐竜の名前が発表されるまでは、アルゼンチン側から、本の出版に「待った!」がかけられていました。ようやく日の目を見ることができて、うれしい限り。
正式なタイトルは、『三つの天窓――アリ・恐竜・ホモサピエンスの見上げた宇宙』(長尾衣里子著)
●第一章では、ただ地面だけを見て一生過ごすはずのアリが宇宙を見上げた奇跡!
●第二章では、最も原始的な獣脚類恐竜エオドロマエウスの発見談と、恐竜時代の夜明けを告げた金星「明けの明星」。
●第三章では、「地球に過適応してはいけない」という恐竜たちのメッセージを託されたホモサピエンス(知性あるヒト)の宇宙へのあこがれと生命へのいつくしみが根底を流れるテーマとなっています。
写真:長尾が発見したエオドロマエウスのホロタイプ。(リカルド・マルティネス提供)
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