大きな虫歯の治療後や、歯に外傷を受けた後、歯の中にある歯髄(しずい:神経)が壊死(えし:死んでしまうこと)してしまうことがあり、これを歯髄壊死と呼んでいます。

 

歯髄壊死が起こると、歯の内部で歯髄組織が変性し、歯に変色が起こってきます。

 

歯髄壊死の初期においては、歯に痛みを感じることはあまりありません。

 

初めのうちはやや色が暗くなる程度ですが、徐々に色が濃く、やがて茶褐色になって異変に気付くことが多いでしょう。

 

したがって、歯髄壊死に気付かずに放置してしまうことも少なくありません。

 

歯髄壊死が起こると、根尖部(こんせんぶ:歯根の先端)から腐敗した物質やバクテリアが漏れ出し、歯槽骨が溶けて、根尖病巣を生じるようになります。

 

 

初診時レントゲン。根尖部に黒く大きなレントゲン透過像を認める(矢印)。歯の痛みと歯茎の腫れを訴えた。歯冠部には、コンポジットレジン充填と思われる大きなレントゲン不透過像(白い)を認めたため、虫歯治療後の歯髄壊死に継発した根尖病巣と診断し、根管治療を行うこととした。

 

 

根管の中にファイルを挿入し、歯根の長さと方向を確認する。頻回に根管内部を洗浄・消毒するも、歯肉の腫れや痛み、排膿を繰り返し、症状の完全消失まで数か月を要した。一般的に、病状の経過が長く、病巣が大きいものは、難治性となりやすい。

 

 

根管充填後レントゲン。白い薬が根尖部まで緊密に充填されているのが分かる。この時点では、根尖部のレントゲン透過像にまだ変化は見られない。歯槽骨の再生をレントゲン上で確認できるには、数か月を要する。

 

 

根管治療5か月後。初診時にあった大きな根尖病巣は、顕著に縮小しているのが分かる(矢印)。

 

 

初診時CT画像。根尖部の黒く大きなCT透過像(骨吸収像)が一目瞭然で分かる(矢印)。根尖病巣の大きさは、親指の爪の大きさほどにも達している。根尖病巣の正確な診査・診断にはCT撮影は欠かせない。

 

 

根管治療5か月後のCT画像。根尖部のCT透過像は顕著に縮小し、歯槽骨の良好な再生を認める。適切な根管治療を施せば、難治性であっても、根尖病巣は治癒する可能性が高い。

 

 

歯髄壊死は、歯茎の腫れや痛みが無ければ気が付きにくいです。

 

そのため、歯の変色や歯科検診で発見されることが多いでしょう。

 

症状が無くても、根尖部には慢性の炎症が持続して存在し、根尖病巣を生じていることが少なくありません。

 

歯髄壊死が長期に放置された場合には、思いもよらず根尖病巣が大きくなっている可能性があります。

 

根尖病巣は、経過が長くなるにつれ、大きくなるに従い、難治性になります。

 

したがって、歯髄壊死が発見されたら、速やかに治療を開始することをおすすめします。