ホモサピエンスは、知能の発達と2足直立歩行により、火を使うことが可能となりました。

これが、調理法に大きな変化をもたらし、食生活を豊かなものにしました。

特に近年は、加工食品の増加に伴い、ソフトフード(軟らかい食べ物)の摂取が増え、戦前と比べて咀嚼回数は約1/2にまで減少したのです。



ソフトフードが歯並びに影響を与えることは、多くの実験から明らかにされています。

ラットを使った固形食と粉末食(ソフトフード)を用いた飼育実験では、固形食を与えて育てたものに比べ、粉末食を与えて育てたものは、上下顎ともに歯列の狭小化(横幅が狭くなること)が起こり、特に下顎での狭小化が顕著にみられるという結果が得られました。

歯列の狭小化は、歯が顎骨に並びきらず、歯列不正になる問題をはらんでいるのです。


ソフトフードによる咀嚼の減少は、咀嚼筋の発達を阻害し、脳への血流量を減少させることから、酸素や栄養の供給も減るとされています。

また、咀嚼は、脳の海馬および前頭前野への刺激となり、ソフトフードによる咀嚼の減少は短期記憶に影響することが分かってきました。

成長期のラットやマウスを固形食と液状食で飼育した実験では、迷路学習テストや条件回避学習テストにおいて、固形食を与えた方が成績がよいという結果が得られています。

さらに、高齢者においては、咀嚼の回数の減少がアルツハイマーの発症に関係していることが解明されてきており、咀嚼が脳機能の与える影響は見逃せません。



ヒトは寿命を大幅に伸ばし、知能の発達とそれによる文化の発展によって進歩してきたものの、ホモサピエンスとしての本来の形態と機能を退化させつつあるのかもしれません。

咀嚼の減少が、その重大な要因になっているということを多くの方に知っていただき、食習慣を見つめる機会になることを願っています。


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