今回は、親知らず(智歯)の害について書きます。

 ヒトの歯は、前から数えて1~8番目まであり、これが上下左右あるので全部で32本の歯があります。
親知らずは、この中で一番奥(後方)にある歯で、8番目の歯に当たります。親知らずは、先天的(生まれながらにして)に欠如(無い)している頻度が比較的多い歯で、1本だけ無い人もいれば、4本すべて欠如しているヒトもいます。

 現代の日本人は、顎骨の幅径(横幅)が狭くなり、正常に萌出する(生える)ことがほとんどできなくなっています。歯の形や大きさは、遺伝的な影響を強く受けるので、顎の大きさが小さくなっても歯は小さくならないため、正常に萌出できないのです。それどころか、栄養状態の変化のためか、歯は少しずつ大きくなっているような感じさえ受けます。

 親知らずが正常に萌出できない場合、歯茎や骨の中に埋伏(埋まった状態)してしまいます。骨の中に完全に埋伏していれば、問題を起こすことはほとんどありません。 しかし、親知らずが骨や歯茎から頭を出したり、手前にある第二大臼歯にぶつかったりすると、知らず知らずのうちにさまざまな害を及ぼします。

 ①萌出した親知らずの周りの歯茎が磨けず、腫れや痛みを起こす(智歯周囲炎といいます)
 ②智歯周囲炎がひどくなると、手前の第二大臼歯も歯周病になり、歯槽骨が溶けてダメになる
 ③親知らずと手前にある第二大臼歯の間がきちんと磨けないので、第二大臼歯の虫歯が進行しダメになる
 ④親知らずが横向きに生えると、第二大臼歯の歯根にぶつかり、歯根吸収(歯根が溶ける)を起こしてダメになる
 ⑤下顎の親知らずが横向きに生えると、歯列を後方から押して、前歯がクラウディング(乱杭歯:凸凹歯)になる
 ⑥下顎の親知らずの萌出する力によって、第二大臼歯が上方に押し上げられると、奥歯の咬み合わせが高くなり、咬合力の弱い人はオープンバイト(開口:正しくは開咬)になる
 *矯正治療をする場合には、ほとんどのケースで親知らずの抜歯が必須となります。抜歯をしておかないと、歯並びの後戻りの原因になるためです。

 このように、親知らずは非常に多くの問題を抱えてしまいます。したがって、現代日本人は親知らずは抜かざるを得ないというのが実情でしょう。歯科医に抜歯を勧められたら、なるべく早めに抜歯をしたほうが得策と思います。特に、若い時(10代)のほうが、歯根が未発達で歯槽骨も軟らかいので抜歯しやすく、短時間で抜けることが多いので、勇気を出して抜歯をすることを是非お勧めいたします。