今日は、食習慣が歯列不正に与える影響について書きます。

 

 

 

 

 現代の食生活は、加工食品の摂取が増えて軟食化が進んで久しいといわれています。食べ物が軟らかくなると、必然的にあまり咬まなくても飲み込めるようになります。

 

 

 これらを裏付ける面白い研究があります。日本における古代から現代までの各時代の復元食を作り、これらをある学生たちに食べさせ、食べるのにかかった時間と咀嚼回数を調べた研究です。それぞれの時代における咀嚼回数は、卑弥呼の時代(弥生)3990回、紫式部の時代(平安)1366回、源頼朝の時代(鎌倉)2654回、徳川家康の時代(江戸初期)1465回、篤姫の時代(江戸末期)1012回、戦前(昭和初期)1420回、現代620回という結果です。「よく噛んで食べる 忘れられた究極の健康法 斎藤滋著 NHK 出版より」

 完全な右肩下がりではありませんが、現代食ではかなり咀嚼回数が減っていることが分かります。また、貴族的な食事では、食材や調理方法によって、咀嚼の回数が減るとも考えられます。

 

 

 また、古代人と現代人の骨格を比べると、現代人では明らかに骨の幅が細くなり、えらの(下顎角といいます)部分の張り具合が少なくなってきました。歯そのものの大きさは、遺伝的な要因が強いのか、あまり変化しません(栄養状態により、近年では、歯は少し大きくなっているような感じがしますが)。歯が入る器である顎骨が細くなり、かつ横幅も狭くなってきているため、歯がきれいに並ばなくなっていると考えられます。

 

 

 また、食べ物の硬さによって咀嚼のパターンが異なります。軟らかいものであれば、あまり咬む必要がないので咀嚼は垂直的な運動を主体に(これをチョッピングパターンと呼びます)、硬いものでは、臼磨運動という食べ物を磨り潰すための水平的な顎の動き(グラインディングパターンと呼びます)が主体になります。この水平的な顎の動きは、上顎骨を左右に広げる効果があるためか、上顎の歯列の横方向への成長を促すことが分かってきました。これに付随して、下顎の臼歯の萌出方向は、内側に倒れることなく真っ直ぐ垂直に生えることができるようになります。

 

 

 つまり、咬み応えのある食べ物を食べると、顎骨や咀嚼筋がよく発達し、歯列がU字型に広くなり、歯並びがきれいになるための下地を作ると考えられるのです。したがって、成長期にある子供の食習慣は、正しい歯並びと咬み合わせの育成のためにも、非常に重要な意味をもっているのです。