ここ数ヶ月間、毎日のように人種差別について考えるようになって、ふと自分自身の昔の体験を思い出すようになった。知り合いの日本人女性の中には黒人と結婚することを実の両親や家族に反対されて喧嘩になったり、縁を切ってしまった人達が何人もいる中で、幸い私の日本の家族は何の質問もせず、黒人のパートナーをすんなりと受け入れてくれた。

 

 

私の(日本の)出身地には大きな米軍基地があり、幼い頃から「アメリカ人」とデートする地元の「お姉さま達」を見て育った。英語でパートナーと会話をする彼女たちを、子供ながらにクールだなと思ったりもした。当時黒人と付き合う女性達は「ブラパン」と呼ばれていて、彼女達の多くは何となく「黒人と付き合っていそう」な雰囲気をかもし出していた。

 

 

単語に「」を付けているのは、これら全てが偏見・ステレオタイプだから。

 

 

地元で「アメリカ人」と付き合うことは一部の人にとってはステータスであり、さらにその中で「白人派」と「黒人派」に分かれていて、それぞれに向けられる周囲からの視線も違っていた。黒人の軍人と付き合う女性には「黒人と付き合っている人」というラベルが貼られて、逆に彼女達は偏見の目を向ける人達を鼻で笑って、「そう、私はあなた達とは違うの」という態度でいた。

 

 

私が最初に留学先に選んだ場所は、人口の8割以上が白人の小さな町。友達が通っていた高校は1,000人以上の学生の中で、当時(20年前)黒人生徒が二人だけ。その二人は兄弟だった。夫はもう少しマイノリティが多い高校出身だったが、そんな町で私は夫と出会った。彼は小さな頃から肌の色の違いで差別を受けてきた。小学生の頃、面と向かって「うちの息子に近づかないでくれ」と友達の親から言われたことが何度もあったし、クラスで物が無くなったり、盗まれたりすれば真っ先に疑われるのは常に自分だったという。それをどう思ったのかと聞くと、「それが当たり前なんだと思っていた。」と。

 

 

話は変わって、黒人と付き合っていた私に対して意味の分からない助言やコメントをしてきた友達や知り合いがたくさんいた。「この国でずっと暮らしていくつもりなら、別の相手を見つけた方が良い」とか、「将来生まれる子供も差別の対象になるということを分かっていない」とか、「黒人英語ではなくて、ちゃんとした英語を身につけた方が良い」とか(!)。でも私はこれっぽっちも気にしなかったし、常に右から左に聞き流していた。

 

 

そんなどうでも良い助言やコメントの中でも特に失礼で意味不明なフレーズ。

 

 

「黒人と付き合ってるように見えないね。」

 

 

それから、

 

 

「あー、黒人の彼女っていう感じがする!」

 

 

こういう発言をする日本人が驚くほど多い。結婚して子供が生まれてから言われることはなくなったが、こういうコメントに対して、私は決まってこう返事をしていた。

 

 

「そう?」

 

 

本当は言いたいことが山ほどあった。「何が言いたいの?」「すごい偏見だね。」「黒人の彼女ってどういう人?」「褒めてるの?それとも逆?」でも、相当嫌な言い方をされた時以外はほぼ全て、「そう?」とだけ言って聞き流した。

 

 

自分の好きなスタイルを貫いて、自分が惹かれて好きになった人と付き合えば良い。それだけのこと。こういう事を言う人達は、「女子校に通ってるっていう感じがする!」とか、「サッカーやってそうな雰囲気ある!」とか、そういう感覚なのかもしれない。でもそれは、他人を勝手な偏見で判断して「どの人種と合いそう、合わなそう」という発言とは全く違う。

 

 

人種差別を受けたことのある人達は、受けたことのない人達の何十倍も何百倍も他人の視線や言動に敏感だと思う。アメリカの人種差別は、白人対黒人の問題ではなく、どの人種間でもあり得る。もちろん、アジア人や移民だということで、私自身少なからず差別を受けたことはあるものの、それはすぐに忘れてしまう程度のものだった。黒人の夫は「差別を受けたことがある」のレベルではない。子供の頃から日常的に差別を受けてきたのだ。だから、私が気づかない差別の視線を、彼は敏感に感じ取る。

 

 

人種差別を受けた経験がない(または少ない)人達は、日常的に差別されている人達の声を意識的に聞いて(Listen)、何が起きているのかを学ぶ(Learn)必要がある。そしてそれぞれが持っている偏見やステレオタイプが、自身の発言や行動に影響を及ぼしているのか、常に意識して改善しなくてはいけない。これは私も常に自分に言い聞かせていることで、全ての人種に言えることだと思う。