アフターダークを駄作と感じたのには、理由がある。感情移入出来なかったのである。
海辺のカフカであまりにも疑似体験を感じたために、第二のカフカを期待していた。
それゆえ、失望感が強く、映像的な描写にもついていけずに、自分のものさしで酷評した。
ところが、数年後に読み返すと、異空間の描写が文体の変化により幻覚症状化していく。
血なまぐさく展開する傷害事件と対比され、ブレンドによりミステリアスな世界を形成する。
現実世界と精神世界の融合。三人称化され私たちの視線も斬新だった。
ねじまき鳥には、牛河が登場している。1Q84の主要な人物である、あの牛河である。
村上初期作品から、同じ人物が登場することは珍しくない。二作品のつながりが見えてくる。
ここで、ねじまき鳥の位置が判明する。1Q84の布石でだったのである。
岡田亨(ワタル)こと僕は失業中で、飼い猫を探していくうちに妻の久美子が家出してしまう。学者である妻の兄綿谷昇は、女の本性を引き出し自己破壊させる裏の顔を持つ。
不登校女子学生、怪しげなおばさん、カノウ姉妹などが加わり、僕の真実追究の旅が始まる。
井戸が出てくる。異空間の出入り口の井戸。ノモンハン戦争体験を謎解きに使いながら。
過去の戦争は、精神世界と大きく関係し、現実に影響を及ぼしているという設定である。
牛河は昇の命令から僕と交渉するが、なぜか途中下車してしまう。僕の顔アザの真相は?
追伸
村上文学に、今流行の話題の人物や社会的に知名度のあるモデルとなった人や物が出てくる。面白おかしくデフォルメされていたり、個性が強調されていたりと、その登場人物を見ているとなかなか面白く、物語を華やかに飾っている。
しかしながら、一番正体不明の怪物といえば、ねじまき鳥クロニクルであろう。ギイイイと鳴いて、世界を大きく動かし、進化させていく。そんな会長の存在があり、聞こえる人にだけ、その鳴き声が届くとするならば、私は、その鳴き声を聞いてみたい。それにより、大きな災いの中に運び込まれ、悪戦苦闘することになっても、それは、それで、振り返れば、貴重な体験になるはずである。
この書は、プリンストン大学客員研究員時代に書かれている。
ちなみに、私の周りで、ガガガガとなく鳥がいる。烏である。普通は、カアカアカアと聞こえるが、不幸を知らせるときは、その啼き方が変化する。「今日は烏の啼きが悪いから、何かあるぞ。」と、母に言われて育った。母はそのまた母に言われたらしい。実際に、当たるから怖いのである。だから、あまり聞きたくない声なのだが、これもねじまき鳥同様聞こえてしまうから、どうしようもないのである。
三年前に亡くなった義兄の冥福を祈る。
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