ついに来たかと、という感想は私だけではないはずである。
この人は、日本文学の巨匠にして、人間失格者である。
太宰治。その思想は、十代を毒してやまない。
彼の人生が小説であり、小説が人生である。
いわゆる、小説と表裏一体の人である。
これは、強い。無敵である。この思想に触れると、若者は心酔する。
私のようなおじさんなら、馬鹿者と言う。自己観察の深い馬鹿者である。
マルクス主義の毒が残っていた私の青春時代には、共産主義のソ連が存在していた。
今は、形骸化したロシヤ、あるいは中国が存続しているだけであるが。
主義主張の洗脳が共産主義なら、心情感情の洗脳が太宰治主義である。
自己猜疑心により、心が蝕まれ、精神的破壊をもたらしていく。
「生きていてごめんなさい。」の思想は、自殺によって完結する。
では、この毒の解毒剤はあるのかというと、文学にはない。
これが、私の結論である。あるのは、君の目標意識と、生への意欲である。
人生の目標を、どこに設定するかで、その人の生き方は決まる。
犠牲の精神は尊いが、責任と義務を果たさない犠牲は、自己欺瞞でしかない。
まずは、自分が楽しく、日々を生きることから始まるのが、人生である。
楽しいとは、自分の生き方が周囲に認められ、あるいは、役立つと信じる生き方である。
自己を否定した生き方は、手段であり目的ではない。目標は生産的なものにすべきである。
この、「晩年」をめぐる事件は、古書の独占欲と、所有欲の化け物が、人を操っていく。
アンカット版をめぐる、文字通りの血みどろの戦いは、栞子、大輔と犠牲者を出していく。
大輔の母の出生秘密や田中敏雄との血縁関係、久我山親子の盗聴事件も発覚する。
そんな中、栞子と大輔の初キッスは微笑ましいものである。
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