「逆」翻訳で理解が深まる『『ウェイリー版・源氏物語』 9月 (100分 de 名著) [ 安田 登 ]』を再読
今の私たちの生活や考え方では理解しづらい『源氏物語』をアーサー・ウェイリーの英訳のその逆翻訳で理解しやすくなることの分かる1冊
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レビュー
『源氏物語』を世界文学レベルにしたといっていいアーサー・ウェイリーによる『源氏物語』について、100分de名著で2024年9月に取り上げられていたのでそれを読んでみました。
本書は、以下の構成になっています。
はじめに 「逆」翻訳の『源氏物語』
第1回 翻訳という魔法
第2回 「シャイニング・プリンス」としてのゲンジ
第3回 『源氏物語』と「もののあはれ」
第4回 世界文学としての『源氏物語』
もう一冊の名著『紫式部日記』
まず驚いたのが、アーサー・ウェイリーは、日本に留学などせずにイギリス国内で、日本語を、しかも古典に使われる日本語を独学でマスターしたことです。古文に使われる日本語を独学マスターってどれだけ語学の天才やねん!って感じですが、ヨーロッパの主要言語もサンスクリット語もマスターしているという語学の天才でした。
大英博物館で東洋美術品のコレクションの担当となり、そこで『源氏物語』とも出会い、1925年から刊行を始め、1933年に宇治十帖まで刊行を果たし、この翻訳により「日本の一大傑作」「文学において時として起こる奇跡のひとつ」などと英米で大反響が巻き起こり、ウェイリーの英訳がフランス語、スウェーデン語などにも翻訳され、世界文学『源氏物語』が誕生したことが分かります。
しかし、アーサー・ウェイリーも20世紀の人なので、平安王朝時代のことなど正直とても分かりにくかったと思います。それを欧米の人たちにも理解できるように翻訳したことが広く受け入れられ、それをあえて歌人の毬矢まりえさんと森山恵さん姉妹が日本語に再翻訳したことで、今の私たちにとって『源氏物語』がより分かりやすくなったことが分かりました・
アーサー・ウェイリーの英訳でありがたいのは、一番が主語が補われていることだと分かります。古文だと守護が省略され、二重尊敬語や謙譲語などの言葉でこれは誰が誰に対してい言っているのかを想像して読まなければならないので、それが受験勉強としての古文のときには大変めんどくさかったことを思い出しましたが、主語が補われるのと、そういった尊敬・謙譲表現が亡くなることは物語をまず理解するのに大変役立ちます。
二重尊敬語とか本当に勘弁してほしかったもんな~
ウェイリー版について、旧約聖書やシェークスピアの影響もあるということで、ウェイリーが900年以上も前の日本の平安王朝時代の『源氏物語』の世界を20世紀の欧米人にも理解できるようにそういった要素も取り入れつつ、『源氏物語』自身の世界観を壊さずに移植したことには本当に驚きを感じるものでした。
〈書籍データ〉
『100分de名著ブックス
ウェイリー版・源氏物語』
著 者:安田 登
発 行:NHK出版
価 格:700円(税別)
2024年9月1日 第1刷発行