#753 レビュー 『第10回 グローバル化とヨーロッパの覇権』-3か月でマスターする世界史 | 歴史に遊び!歴史に悩む!えびけんの積読・乱読、そして精読

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先行していたアジアをついにヨーロッパが抜き、ヨーロッパによる世界支配の流れとなる『第10回 グローバル化とヨーロッパの覇権 - 3か月でマスターする世界史 - NHK』について

主権国家体制と資本主義経済の帝国主義ヨーロッパが、先行した多民族国家を寛容的に支配する帝国モデルのアジアを追い抜くその様を見る回

 

(NHK『第10回 グローバル化とヨーロッパの覇権 - 3か月でマスターする世界史 - NHK』のタイトル画面(C)NHK)

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  中華思想の明と主権国家で大航海時代を迎える西欧をつなぐ銀

第9・10回は、「中華思想の王朝と大航海時代 アジアを植民地化するヨーロッパ」と題して、先行していたアジアをヨーロッパが追いつき、追い抜き世界のスタンダードとなっていく姿を見ていくものです。

(NHKの『第9回 “中華”の確立と大航海時代 - 3か月でマスターする世界史 - NHK』のより、9・10回について(C)NHK)

ゲストは歴史社会学専攻の立命館大学の山下範久先生です。

 

ナビゲーターの岡本隆司先生のよると今回のポイントは

    

 ①「帝国」清の衰退はなぜ?

 ②ヨーロッパ逆転のカギは植民地?

山下範久先生によると、ヨーロッパ人と非ヨーロッパ人との関係が大きく変わった時代と表現されています。

 

「帝国」モデルのアジア世界の清

漢人の明が満州人に倒され、中華世界には清王朝が成立し、モンゴル・トルコ系ムスリム・チベットなど多民族国家を形成します。

(NHKの『第10回 グローバル化とヨーロッパの覇権 - 3か月でマスターする世界史 - NHK』より、清帝国(C)NHK)

 

対外貿易については朝貢形式については明の政策を踏襲しながらも、互市という後任の対外貿易制度も採用して、民間の貿易もOKとします。

 

多民族共存の寛容な統治として、清の最高権力者はそれぞれの民族に合わせて、ハン、大ハーン、皇帝、大壇越、保護者など合わせた形での振舞をしたこれまでのアジア世界に展開される帝国モデルで統治を行います。

(NHKの『第10回 グローバル化とヨーロッパの覇権 - 3か月でマスターする世界史 - NHK』より、清の統治(C)NHK)

 

ヨーロッパ 主権国家体制で競争激化

ヨーロッパでは”17世紀の危機(寒冷化・ペスト・凶作)に見舞われていました。

(NHKの『第10回 グローバル化とヨーロッパの覇権 - 3か月でマスターする世界史 - NHK』より、17世紀の危機(C)NHK)

 

この危機に対応していく中で、ヨーロッパでは、これまでのユーラシア大陸で広く展開されてきた多民族を寛容に支配する帝国モデルではない、主権国家体制が確立します。各主権国家で煮競争が始まります。

(NHKの『第10回 グローバル化とヨーロッパの覇権 - 3か月でマスターする世界史 - NHK』より、ヨーロッパの主権国家体制(C)NHK)

 

まずは、造船業と毛織物工業のオランダが抜け出します。

(NHKの『第10回 グローバル化とヨーロッパの覇権 - 3か月でマスターする世界史 - NHK』より、ヨーロッパの主権国家体制(C)NHK)

次に、イギリスが台頭します。イギリスは中央銀行を設立し、将来の担税力を担保に国債を発行して多額の戦費の調達を可能にして各種戦争に勝つことで大西洋の海上覇権を確立します。

 

山下範久先生によると、重商主義のヨーロッパでは主権国家間での競争が激しくなり、国家として戦費をどう調達するか「戦争マシーン」としてのパフォーマンスが問われるようになり、それを中央銀行と国債で対応したイギリスが覇権を確立したとのことです。

 

イノベーションが必要なヨーロッパ、不要な清

中国とヨーロッパのそれぞれの状況の説明の後、ついにヨーロッパがアジアに追いつき、追い越すそのイノベーションが語られることになります。

 

この図で表わされているGDPからわかる通り、第10回の時代は中国・インドを合わせれば西欧を圧倒している状況です。

(NHKの『第10回 グローバル化とヨーロッパの覇権 - 3か月でマスターする世界史 - NHK』より、地域別GDPの世界シェア推移(C)NHK)

 

イギリスは、大西洋での海上覇権を確立し、イギリス・アフリカ・アメリカの三角貿易で経済力を高めます。そんなイギリスでインドの綿織物が大流行します。国内の毛織物業界が反発し、イギリス議会でインド織物の禁止が決めたりしますが、綿織物の流行を止めることが難しく、そこでイギリスは国内で綿織物を作ることにかじを切ります。

 

ただ人口多いわけではないイギリスとしては、商品を輸出するくらいにつくるためにはどうするのかというところから産業革命が起こり、紡績機や自動織機が生み出され、それによって生み出された大量の安価な綿織物をインドに逆輸出し、アジアを製品の輸出先の市場とすることに成功します。これでさらに富を蓄え、出先機関の東インド会社は軍隊ももち、ついにはインドを植民地化してしまいます。

(NHKの『第10回 グローバル化とヨーロッパの覇権 - 3か月でマスターする世界史 - NHK』イギリスと植民地の関係(C)NHK)

その後、そのインドに設備投資をして、原材料供給地に変えます。それをイギリスは世界各地で行い、世界の工場として、植民地から原料を仕入れ、イギリスで製品に変えて富を蓄えていく資本主義経済を生み出します。

 

この取り組みを、イギリス以外の西欧の主権国家も同じように行い、帝国主義という考えを生み出して、世界各地を植民地化していく流れにつながっていきます。

 

しかし、そんなイギリスにも困ったことがありました。当時のイギリスではお茶が流行し、お茶を中国の清から買っていたので、銀の流出に困っていました。

 

1793年イギリスは、清との自由貿易実現のため、全権大使マカートニーを派遣し、清の乾隆帝に謁見を求めます。

「天朝は物産が豊かで満ちあふれており、外夷の物品に頼る必要などさらさらない」

と乾隆帝に拒否されてしまいます。

 

貿易赤字に苦しむイギリスは、植民地で栽培していたアヘンを清に密輸することで、銀の流れを逆転させます。

(NHKの『第10回 グローバル化とヨーロッパの覇権 - 3か月でマスターする世界史 - NHK』イギリスと清の貿易(C)NHK)

 

今度は清側が、銀の流出にアヘン中毒者続出という問題に苦しむことになり、アヘンを取り締まった結果、イギリスに戦争を仕掛けられ、1840年にアヘン戦争で敗れ、自由貿易と香港割譲が課せられます。

 

清は自分たちが世界の中心という世界観(コスモロジー)を持っており、その外側の世界の変化を受け止めることが非常に難しかったことが、ヨーロッパに逆転を許し、アヘン戦争で負け、その後の日清戦争での敗北にもつながるという見立ての話がなされ、あの乾隆帝の自由貿易拒否の発言に見られるように、確かにそうだと思わされるものでした。

 

次に出てくるのが日本です。清は中華思想で自分たちの外の世界の新しい変化に対応することに苦慮しますが、日本は明治維新・文明開化・富国強兵などで対応し、1894年の日清戦争で清に勝利して、いち早く西欧の主権国家体制・資本主義・帝国主義に対応します。

 

このアジアの植民地化について、大航海時代のアフリカやアメリカの植民地化と同様の思考法が西欧に合ったとする指摘が興味深いものでした。大航海時代には、アフリカやアメリカでヨーロッパ諸国はかなりひどいことをしますが、キリスト教を信仰するに値するのかどうか、キリスト教徒でないのなら関係ないとする発想が、この帝国主義時代には、アジアなどが自ら近代化できるものたちなのか、そうでないなら俺たちが近代化の恵みを与えてやるということで自らを正当化したという類推でした。歴史の見方を深める指摘だと思います。

 

近代化するヨーロッパ ”国民の誕生”

アジアの多民族のゆるやかな支配の帝国モデルではなく、主権国家モデルで動くヨーロッパの近代化に大きな存在が国民

(NHKの『第10回 グローバル化とヨーロッパの覇権 - 3か月でマスターする世界史 - NHK』イギリスと清の貿易(C)NHK)

 

アメリカ独立戦争で、自由や平等が謳われ、フランス革命からナポレオンの登場で、その革命の余波を危険視する周辺ヨーロッパ諸国から攻められたフランスで、徴兵制の国民軍で、自分の国を自らで守るという自分事にしたことで国民意識が醸成され、国民国家となり、国家から見れば動員のロジック、社会から見れば連帯のロジックとして成立し、ヨーロッパ内では自由主義的で、民主主義的な国家、外に対しては帝国主義的に振舞、国民国家となれないところはヨーロッパの植民ととされてしまったという解説がなされていました。

 

第10回は、”帝国”という言葉について、古来から続く各種帝国と、大英帝国のようなヨーロッパで成立したこの頃の帝国とは異なるものだという知見が私には刺激的でした。

 

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