トロイア滅亡からローマ建国に向けての移住の苦難を描いた『アエネーイス』を収めた『世界古典文学全集(第21巻) ウェルギリウス/ルクレティウス』を読みました。
『アエネーイス』=ホメロスの『イリアス』+『オデュッセイア』+帝政までのローマ史
というウェルギリウスの英雄叙事詩
レビュー
ギリシア悲劇を読む関係で、ギリシア悲劇→ギリシア神話、その中でもトロイア戦争を知っていくうちに、そのトロイアで最後まで戦った王族唯一の生き残りが、炎上するトロイアから脱出し、逃避行の末にイタリアにたどり着き、そこからローマ建国の狼に育てられたロムルスとレムス兄弟につながることを知り、それがどんな展開かと読んだのが本書のウェルギリウスによる『アエネーイス(アエネイス)』です。
※今回読んだのは、ウェルギリウスのみです。
本書は、著者が共和制ローマの内戦が終わり、オクタヴィアヌスが勝利して実質的帝政を始め、初代皇帝アウグストゥスと呼ばれる時代に書かれたもので、その時代から振り返って地中海世界を治めた偉大なるローマの歴史をロムルス・レムスの建国神話よりさらに前の、ギリシアのオリュンポス神らとも関係づけるものとして作られたウェルギリウス版のホメロス英雄叙事詩といえる作品です。全12巻で構成されます。
母で女神ウェヌス(ギリシアではアフロディテ)から、炎上するトロイアから脱出して一族連れてイタリアで新たなトロイアのローマを建国するように命じられるアエネーアース、妻はトロイア王プリアモスの娘でトロイア王族の一員です。
第1巻:トロイア陥落後、7年海上を放浪し、シチリア島に到着するも、カルタゴに流れ着き、そこで女王ディードーと出会い、歓待を受けることになります。
第2巻:カルタゴ女王ディードーに請われて、アエネーアースはギリシア軍の奸計でトロイアがどのようにして滅ぼされたのか、そして自らはどのようにトロイアを脱出したかが語られます。トロイの木馬の話も出ます。
第3巻:トロイアから船で脱出してカルタゴに着くまでの漂流譚が、ホメロスの『オデュッセイア』の話をパクった形で展開されます。
第4巻:女神ユーノー(ギリシアではヘラ)はトロイアを今でも恨み、彼らがローマ建国など果たせないようにと考え、女神ウェヌスに協力求めて、カルタゴ女王ディードーにアエネーアースへの恋心を燃え上がらせて二人を愛し合わせることに成功しますが、主神ユーピテル(ギリシアではゼウス)がアエネーアースにローマ建国の使命を果たすように求め、秘密裏に去ろうとしたアエネーアースに恨みを抱いてディードーは彼からもらった剣に伏して亡くなります。
第5巻:シチリア島にどうにかついたアエネーアースは父アンキーセースを葬った墓でその命日の儀式として奉納の競技会を催して、その後イタリア本土を目指して出発しますが、亡父が夢に現れて地下の冥界に尋ねるべきと促します。
第6巻:アポロン神の巫女シビュルラの案内で冥界へ、そこで図らずもディードーの霊を再開し、ディードーから激しく恨まれていることを知ります(のちのポエニ戦争への遠因か)。その後、亡父アンキーセスと会い、彼からローマ建国やアウグストゥスのことなどを語り聞かせます(ここもまさにホメロスの『オデュッセイア』の冥界行エピソードのパクり)
第7巻~第12巻:アエネーアースら一行はついにイタリア半島のティベル河に入り、ラウレンティース族王のラティーヌより娘の婿とされることになりますが、それを不満に思い、自らが婿であると思っていたルトゥリー族の王トゥルヌスとが戦いをはじめ、激闘の末についにアエネーアースが勝利して終わる話が展開されます。凄惨な戦い続く中でアエネーアースとトゥルヌスが一騎打ちで決着をつけようという盟約がなされるにもかかわらず、神の介入で破約となって戦いが続くなど、こちらもホメロスの『イリアス』を思わせる展開でした。
作品としては、ロムルスやレムスまで話がつながるわけではないのですが、地中海世界を統一したローマが、そうなるのが歴史の必然、神が定めた運命であるものというのを証明するために作られた神話による英雄叙事詩ということがよくわかりました。
しかし、トロイア戦争の時のオリュンポス12神のゼウスの妻ヘラですが、本当のトロイアが嫌いなようで、こちらでもユピテル(ゼウス)の妻ユーノー(ヘラ)が執拗に邪魔する様は、神って何だろうって思ってしまいました。
〈書籍データ〉
『世界古典文学全集21 ウェルギリウス・ルクレティウス』
訳 者:泉井 久之助・岩田 義一・藤沢 令夫
発 行:株式会社筑摩書房
1965年6月10日 第1刷発行
2005年1月30日 第6刷発行
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