#529 まとめ 大坂冬&夏の陣を描いた『城塞 上中下』と大河比較 | 歴史に遊び!歴史に悩む!えびけんの積読・乱読、そして精読

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司馬遼太郎先生が徳川家康を主人公にした歴史小説『城塞(上)(新潮文庫)』『城塞(中) (新潮文庫)』『城塞(下)(新潮文庫)』の全体を通してのレビューと大河との比較

司馬遼太郎先生による大坂の陣、家康の執拗な奸謀の数々と滅びゆく豊臣家と奮戦する浪人衆の美学あふれる散り際が注目

城塞(上)(新潮文庫)

城塞(中) (新潮文庫)

城塞(下)(新潮文庫)

城塞(上中下) 合本版(新潮文庫)

 

  レビュー

大河ドラマ「どうする家康」 - NHK』では、大坂の陣もこれまでの戦いと同じくそれほど合戦の経過や駆け引きなどが描かれないので、司馬遼太郎先生ならどう書くのかと思ってこの大坂の陣を題材にした『城塞(上中下)』を読んでみました。

 

本書の特徴としては、甲州軍学を後に生み出す武田家遺臣の息子、小幡勘兵衛景憲を配して、彼が大坂方を暴発させる任務を与えられた徳川の諜者として、大野治長に気に入られて大坂入りし、彼の視点から大坂の陣の推移が描かれることです。そんな彼も諜者でありながらも、チャンスがあるなら徳川を倒して、乱世での成り上がりを伺いながらも、結局は、茶々(淀君)ら女により物事が決められてしまう大坂の状況に無理だと悟り、徳川方に戻って戦って手柄を立てるくらいの展開で大坂の陣が終わります。

 

本書と『大河ドラマ「どうする家康」 - NHK』の大きな違いとしては

<家康の意思>

本書:家康はとにかく豊臣家をどんな手段でも滅亡させる

大河:静かに力をそいで、豊臣家を公家として扱い、武家政権の徳川としての天下を確立する。しかし・・・

 

<秀頼について>

本書:茶々の方針で大坂城内で公家として育てられ、武家の振舞が分からず、これといった意思表示もほとんどしない秀頼

 

大河:茶々の憧れの君として育てられ、我こそは天下人!家康から取り返し、唐入りするぞ!と強く激しく意思を見せた秀頼

大河では、戦無き世(浄土)を実現したいのに、公家であることに満足せずに果ては唐入りまで考えるくらいに戦の世(穢土)を望み、乱世を終わらせたい家康らを挑発するから仕方なく対決するという描かれ方ですが、本書では、家康は自分の残り少ない人生をかけ、難癖だろうが、だまし討ちだろうがどんな手段を使ってでも豊臣を必ず滅亡させてやるという強烈な意思でもって、豊臣方をまさに奸謀でもって追い込んでいきます。

 

どちらもあの「国家安康」「君臣豊楽」による方広寺鐘銘事件から始まる豊臣方の交渉役、方桐且元が大坂を退場することによる交渉断絶が決定打になりますが、本書では家康らの追い込み方がとにかく悪辣です。方桐且元には厳しい要求を突きつけるも、茶々を支える大蔵卿局らには非常に優しく、孫娘の婿の秀頼を心配しているという感じで接し、方桐且元は家康に通じるものだと完全なる悪者に仕立て上げられてしまいます。

 

大坂冬の陣の和議でも、大河では常高院がおっとりしている割にはしっかりとした交渉術を見せて、阿茶局を驚かせるなんて形ですが、本書では本多正純と阿茶局が武士の政界の事など分からない常高院を操作するがごとく和議内容をまとめて、惣濠という外濠だけのはずが、わざと”総濠”と読み違えるふりをして一気に埋め立ててしまい、抗議に来た秀頼方に対してもたらいまわしや仮病で面会できないとしてそのうちに埋め立てを完了してしまいます。

 

大坂夏の陣でも、家康は戦いに際して、後藤又兵衛、真田信繁(本書では幸村)らが家康型に寝返ろうとしているうその情報を大坂方につかませて、茶々らを疑心暗鬼に陥らせて、秀頼の出陣をできなくさせ、一枚岩で戦えなくしてしまいます。滅亡させるためなら手段は選ばない凄みある家康が描かれています。

 

形勢があまりに降りすぎる中で、万に一つの勝つ策を立てながらも、激しく散っていかに後世に名を馳せるかという美学あふれる真田信繁、後藤又兵衛、木村重成らの戦う清々しさには、胸が熱くなります。

  

 

 

 

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