毎号読んでいる歴史雑誌『歴史群像 2023年12月号[雑誌]』の最新号についてのレビューです。
毎号、日本史・世界史、そして現代史のことや、兵器の中でもマイナーな兵器など恐らく特集してくれなければ知ろうとしない内容と歴史知識の拡大と深堀に役立つのが歴史群像です。
本書について
今号も、日本史から世界史、戦争の歴史に兵器の歴史、そして太平洋戦争で空母「赤城」「翔鶴」の乗組員のオーラルヒストリーに、マンガ『センゴク』宮下英樹先生による連載『神聖ローマ帝国三十年戦争』にと盛りだくさんの内容です。
●山本五十六の最期
連合艦隊司令長官の山本五十六は、1943(昭和18)年4月18日に、パプアニューギニアのブーゲンビル島上空で待ち伏せられた米軍機により襲撃され、山本五十六は機上戦死を遂げ、搭乗機は撃墜されたということになっています。
この機上戦死について、墜落当時の検視では、致命傷となったとされる銃創は、米軍戦闘機の大口径の機銃弾によるものとはとても思えない小さいものだったことから従来型通説への疑問が投げかけられていることから、2018年から墜落現場調査を続ける著者の坂井田洋治さんが、今年は山本長官没後80年にあたるので、改めて現地を訪れ、残された機体を3Dスキャンをして米軍機の射線の推測や、GPSによる破片の位置分析などから、その死を探っていく特集で、現地調査と科学による研究で、長官機はなすすべなくやられたわけでなく、山本五十六も米軍の機銃弾ではなく、機体エンジンに着弾した炸裂弾の破片による可能性が高いことが示されているのは、通説を改めて疑ってみる大切さを教えられました。
●ムルマンスクの戦い
フィンランドとソ連の北極海方面での戦い、ソ連のムルマンスクをめぐる独・フィンランドvsソ連(のちにイギリス)が、もし、ドイツが勝ち切っていたならば、その後の独ソ戦に大きな影響を与えていたかもしれない。目立たないけども実はターニングポイント的な戦いの特集
ソ連にとって北極圏に位置するムルマンスクは不凍港であり、このムルマンスクと白海沿岸のアルハンゲリスクで、英米連合国からソ連への軍事援助物資(レンド・リース物資)が届く重要拠点でした。特にムルマンスクは、ソ連がドイツの攻勢で最も危機的な状況に陥っていた期間のソ連を支える英米からの軍事支援物資が届く重要な港でした。
ここをナチスドイツは、ソ連=フィンランド戦争(「冬戦争」)でソ連に領土を奪われたフィンランドを味方にして、ムルマンスク攻略を目指します。しかし、北極圏で、それほど開発されているわけでもないエリアでもあったために、厳しい気候状況などからうまく進められず、途中から、イギリス空軍もソ連の支援として戦闘機を届けて、ソ連とイギリスによる連合作戦に実施などにより失敗に終わってしまいます。
独ソ戦が、ヒトラーの思惑と違って長期戦の様相を呈する中、このムルマンスクが米英軍事援助物資が届けられる拠点として機能することで、戦略的重要性がはっきりすることになります。もし、ドイツが攻略していたら、ソ連もより一層厳しい状態に陥っていたもしれないのではと思わせる特集でした。
●日本近代化の主導者 小栗上野介
幕末において幕府第一主義として主戦論を主張し続けた頑固さと切れ者過ぎる故に危険視されて、幕府から遠ざけられ、また、新政府からはある意味見せしめ的に処刑されてしまった”維新後に処刑された唯一の幕府吏僚”小栗上野介についての特集でした。
かつて戦後歴史学では、小栗はフランスの資金援助で徳川絶対主義を確立しようとした買弁政治家という酷評がなされた時期があるそうです。これはまさに明治維新から今までの流れが正しいから、その明治政府に敵対して江戸幕府延命を図るのは反動的だとする歴史観によるものだといこと、一方で、小栗は最後まで江戸幕府のために、「武士はニ君に仕えず」を貫いて尽力し、滅亡に殉じた武士の鑑という好意的な評価もある毀誉褒貶ある人物だそうです。
今回の特集では、幕臣として遣米使節でアメリカのナンバー2の国務長官を相手に、天秤秤と算盤を駆使して日米間の為替レートの不平等を具体的な数字で叩きつけたことや、アメリカの各種工場を視察する中で、ネジやバネに強い関心を示して持ち帰り、横須賀製鉄所建設につなげていったことなどの吏僚としての優秀さを示すエピソードも紹介される中、一方で、すでに朝廷の意向や雄藩との政治を行っていた状況で、松平春嶽らの前で朝廷や諸大名が政治に干渉するのは幕府の失態だと主張して、春嶽らのうっとうしがられるエピソードも紹介されています。
この結果、朝幕協調や公武合体を目指している幕閣らの間では、主戦論を唱える面倒な人物にされ、小栗は幕政から遠ざけられることもありますが、有能ゆえに兵制改革なども必要なことから登用され、遠ざけられ登用されを繰り返していくことになります。その過程で小栗が幕府を強くする。幕府を近代化するために近づいたのがフランスでした。
大政奉還後も、小栗は榎本武揚らと主戦論を主張しますが、老中より御役御免の沙汰を申し渡されて、小栗は領地である上野国権田村に土着する願いを出して権田村に移動しますが、そこで待ち構えていたのが世直し一揆でこれを小栗は鉄砲を使って撃退しますが、それが東山道を進む新政府軍に聞こえ、危険視されて処刑の悲劇につながっていきます。
特集で小ネタ的に面白かったのが、北関東方面で話題になる徳川埋蔵金伝説ですが、小栗上野介は江戸から権田村に戻っていく際に、不用となって払い下げられた千両箱に、鉄炮の銃弾を入れて運んだのですが、運ばれていく千両箱を見たものがたちが、小栗が江戸幕府のお金を巨額に盗み出した。江戸幕府の御用金を権田村に運んで行ったというのが、小栗にまつわる徳川埋蔵金伝説としてつながっていたとのことです。
●ナポレオン戦争ロシア戦役 PART.2
この雑誌では、いつからか忘れましたが、ナポレオン戦争を細かく追いかけ続けています。2号前にイベリア半島でのナポレオン戦争の特集が終わり、前号はロシア戦役開戦前のフランスとロシアの状況の説明がなされ、今回からついにその戦役が始まります。
ナポレオンの考えは、ロシア軍の第1軍と第2軍が離れているうちに両軍の間に入る形で分断して、早い段階でどちらかと会戦して、勝利後は残りと会戦をしてという分断作戦を立てていました。
ただ今回はこれまでのプロイセン・オーストリアなどの戦いと異なり、ロシアに行くまでにあまりに距離があり、兵站にも問題があり、また大軍勢でそれをナポレオンと戦い続けた司令官ではなく、その上の存在として弟のジェローム・ナポレオンや養子のウジェーヌに各軍団を率いらせますが、経験不足のためにうまく軍団を率いることができず、ロシアの方は分断されてしまってはまずいと合流を目指して、どんどん後退を続け、ナポレオンの想定は大きく崩れ、後世のヒトラーの独ソ戦のように泥沼の長期戦への道を歩み出している第2回でした。
<書籍データ>
『歴史群像 2023年12月号 No.182』
発 行:㈱ワン・パブリッシング
価 格:1,190円(税込)
発 売:2023年11月6日