作家、安部龍太郎先生の分析と解説で知る
『覇王の家』のエッセンス
本書について
私は司馬遼太郎先生の本は幾冊か読んでいますが『覇王の家』は読んだことがありませんでした。ちょうど大河ドラマが徳川家康ですのでそれで手に取りました。
今回は、作家の安部龍太郎先生による本書の分析と発表時の時代背景などが語られ、歴史小説の読み方を豊かにしてくれるものでした。
作家の安部龍太郎先生による分析・解説で、そもそもこの作品を発表されたのが1970年で、六〇年安保から七〇年安保にかけての学生運動の全共闘運動が華やかな時で、唯物史観や進歩史観と呼ばれる歴史観が世間に広まっている状況の中、司馬遼太郎先生のこの作品は「人間史観」と呼ぶべきもので、その唯物史観という当時の広まっている歴史観に果敢に挑んだ作品であるということでした。
<安部龍太郎先生の解説による史観>
唯物史観:社会を動かすのは生産関係の在り方、その変化に基づき社会は段階的に発展していく
人間史観:人物が歴史を作る
面白いのは、司馬遼太郎先生はこの作品を書くにあたって、徳川家康のキャラクターを”決めつける”こと、そのキャラ設定により史実を説明して、物語の展開を分かりやすくしているということでした(決めつけすぎてしまうと人物像を深めていけないデメリットあり)。
この”決めつけ”をどう読者に受け入れられるようにするかが、作家の腕の見せ所なんだということに気づかされます。
徳川家康を「三河人」とし、三河人とは何かとして「三河かたぎ」というのを歴史資料を渉猟して設定することで、説得力を持たせます。
「三河かたぎ」として、隣の尾張の人と比べると、商業よりも農業で、中世的気質が強いということで、それが江戸幕府開設において、広く外国と通商して商業を発展させるというよりも、地方分権型の農業重視な社会体制にしたとつなげていくそうで、”決めつけ”をそこまでひっぱっていけるところが司馬先生の凄さだと思わされました。
『覇王の家』を読んでいないので、もし本書を読んでいなければ驚いただろうことは、関ヶ原の戦いを大坂の陣が端折られているそうです。その理由については、すでに『関ヶ原』を先駆けて発表し、大坂の陣を題材にした『城塞』を同時期に発表していることから、すでに書いていることをまたここに書くのは作家の良心として問題があるとの判断なんだろうとのことです。これは知らずに読めば、感想としてなぜ関ヶ原や大坂を書かないのかと思いますし、一方でこの本の下巻の多くを占める小牧・長久手の戦いに司馬遼太郎先生が大きな意味を感じて書いていることが分かりました。
今は、『平家物語』を読んでいるので、そのあとにでも安部龍太郎先生の分析を意識しながら『覇王の家』を読んでみようと思いました。
<本書データ>
『100分de名著「覇王の家」』
著 者:安部龍太郎
発 行:NHK出版
発行日:2023年8月1日発行
値 段:600円(税込み)