『平家物語』のその物語としての設定から史実がどうであったかを考えるため、平家の群像 物語から史実へ (岩波新書)を読みました。
物語ほど平家一門がきれいに一門としてピラミッド形式で機能しているわけではない史実の平家一門を知る
2023年の読書テーマ”とにかく読了 日本の古典”で『平家物語』を現代語訳付きで読んでおり、より理解を深めるための副読本として今回読みました。
著者 高橋昌明さんについて
1945年生まれ、大学時代に石母田正さんの『平家物語』を読んで、その魅力にとりつかれ、日本中世史、ことに平家と治承・寿永の内乱の時代を長年研究された歴史家。
特徴としては、武士の幕府といえば鎌倉幕府、室町幕府、江戸幕府というのが一般的な理解だと思いますが、平清盛の評価から六波羅幕府という概念を提唱していることです。
本書について
平家の群像というタイトルにある通り、清盛とその息子・娘たち、清盛の兄弟姉妹のそれぞれにも光を当てて、史実の面から各人物を評価しています。
この本でも、高倉上皇-安徳天皇の平氏系新王朝や六波羅幕府という概念を提示しています。『平家物語』では、かの有名な「平家にあらずんば人にあらず」という言葉で、日本国内の治める国や荘園の数や、朝廷での簡易などを独占し、我が世の春を謳歌しているイメージが強く印象付けられていますが、確かに軍事部門は武家なので抑えているわけですが、朝廷での国政を審議する会議には、急速に力を掌握してしまったがゆえに、行政執行の実務経験もなく、また前例に関する知識や見解も乏しいことから、そこまで掌握しきれているわけでなく、親平家の有力貴族との関係が必要であったということはその見方を変えるものだと思います。
平家一門において一門としてまとまっているように思えていましたが、清盛という強烈な存在がいる間は成立していましたが、当時では異母兄弟の場合はその母の身分が大きな影響を与えるそうで、確かに、清盛の下で重盛が棟梁としてふるまうも、重盛死後は母の身分が高かった弟の宗盛とその流れが主流となり、重盛の一派(小松家)側は傍流として追いやられ、それゆえに重盛の子の維盛などは平家全体の未来だけでなく、自分たちの一派の未来に暗澹たるものを感じ入水自殺(生き残る伝説もあるそうです)せざる得なかったというその一門の中でのそれぞれの争いが分かります。
『平家物語』では無能で怯懦なキャラ設定の宗盛や、頼朝・義仲との戦いであっさりと逃げて戦いがまるでダメな維盛が、それが物語の効果を高めるための設定であることや、維盛ではなくて重衡や知盛だったらもしかしたら頼朝の富士川の戦いや、義仲の倶利伽羅峠の戦いなどちがったものになったのではないかということを知ることができます。
これを読んで、『平家物語』が劇的な物語として成立させるためにいかに登場人物のキャラ造形を行ったのか、その凄みを再確認することのできる1冊とも言えました。
本書の構成
序 章:清盛の夢-福原の新王朝
第一章:「賢人」と「光源氏」-小松家の「嫡子」
第二章:「牡丹の花」の武将-はなやぐ一門主流
第三章:内乱の中の二人-平家の代将軍として
第四章:平家都落ちー追われる一門
第五章:一の谷から壇ノ浦へー平家一門の終焉
第六章:さまざな運命
<書籍データ>
『平家の群像 物語から史実へ』
編 者:高橋 昌明
発行所:株式会社岩波書店
価 格:760 円(税別)
2009年10月20日 第1刷発行
2013年 5月15日 第6刷発行
岩波新書(新赤版)1212