#249 献本レビュー『評伝 伊藤野枝』堀 和恵 | 歴史に遊び!歴史に悩む!えびけんの積読・乱読、そして精読

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個人の自由を求め、それを勝ち得るためなら自分の身に嵐が吹こうとも、むしろ「吹けよ、あれよ、風よ、あらしよ」と望んで戦い続け、大杉栄との革命の志とその愛に生きた伊藤野枝の圧倒的な人生を描いた1冊

本が好き!さんから献本、

評伝 伊藤野枝 ~あらしのように生きて~

  本書について

時代の女性観に反旗を翻し、「自由」を求め戦い続けた伊藤野枝

「ふけよ、あれよ、風よ、あらしよ」と謳い、「どうせ、あたしたちは畳の上でまともな死に方なんてしやしない。きっと、思いがけない殺され方をするだろう」と周囲の人に語っていた伊藤野枝

まさにその通りに、関東大震災のどさくさの中、恐らく国家の意思により国家にとっての危険分子と見られていたがゆえに、甘粕正彦大尉らの憲兵隊により大杉栄、大杉栄の甥の橘宗一らとともにむご過ぎる殺され方をされる伊藤野枝

なぜ、殺されるような最期と思いながらも「自由」を求め、あくなき戦いを続けたのかその伊藤野枝の熱く、激しい人生がその生い立ちから最期までが描かれています。

伊藤野枝の考えや行動の理想像的存在のエマ・ゴールドマン、伝統的な女性観の世界に引き戻されそうなのを救ってくれた夫の辻潤、辻潤との貧困に苦しむ若き伊藤野枝に活躍の場を与えて支えのちに立ち位置の違いから別れる『青踏』の平塚らいてう、魂の結びつきといっていい大杉栄、それぞれが野枝にとってどのような存在であり、影響を与えたかを知ることができます。

とにかく伊藤野枝は「行動の人」といえます。
 ・田舎を出て東京で学校に入るために叔父に手紙を書いて働きかけて実現する。
 ・父や叔父による望まぬ結婚からの脱出をはかるために『青踏』で活躍している平塚らいてうに助の手紙を書いて実現し、のちに平塚らいてうから『青踏』を引き継ぐ。
 ・妻のいる大杉栄にも手紙を書き、恋仲に落ち、二人の革命家として行動する。
など、「自由」を求める行動のたびに、地域や社会から大いに批判を浴びても、自分の信じる「自由」の獲得のために戦い続ける姿には驚きを感じました。

この評伝には、伊藤野枝、大杉栄、平塚らいてうの人生についての説明もあります。それだけでなく伊藤野枝と大杉栄を無残な殺し方で殺害した甘粕正彦や、伊藤野枝の子ども達についての話が後日談としてついていることもより伊藤野枝の人生の理解を深めてくれることに役立つと思います。
平塚らいてうは、貧しき中で苦労する伊藤野枝に『青踏』で活躍の場を与えるわけですが、どちらかというとエリートで優雅な平塚らいてうと、幼き頃から貧しかった伊藤野枝とではその環境の違いから「自由」への希求度も大きく異なり、それが二人を分けることになるんだなというのが分かりました(大杉栄もそのことを指摘しています)。

最後に、おわりにを読んで、著者は、平成29年に共謀罪法が成立したことから、「国家」「体制」と「人間」の関係が戦前のこの伊藤野枝らのころのようになってしまわないのかという危惧があり、その警鐘として本書を、伊藤野枝の人生とその伊藤野枝に対する「国家」「体制」の怖さを伝えたいという思いがベースにあることを知り、もう一度そういった視点で読み直してみたいと思いました。

 
 
 

<書籍データ>

『評伝 伊藤野枝』

著 者:堀 和恵

発行所 郁朋社

 2023年4月28日 第1刷発行

定 価:1,500円+税

 

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