ほとんどの方が、高校古典のいちばん最初に習った作品ではないでしょうか。

 ぼた餅を食べたいが周りの大人にどう思われるかも気にする、幼い少年の微笑ましい反応を描いた内容です。それでは見ていきましょう。

 

〈お話の背景〉

 ・児(ちご)…勉強のために寺に預けられている幼い子

 ・そら寝…寝たふり

 

 

〈本文の現代語訳〉

 

 昔々、比叡山にがいました。

 

 一日が暮れてまだ間もない退屈な時に、僧たち「さあ、ぼた餅を作りましょう。」と言ったのを、は期待して聞きました。

 

 しかし、(僧たちが)完成させるのを待って寝ないのもよくないと思い、(部屋の)片隅に寄って寝たふりをして待っていたところ、すでに作り上げた様子で騒いでいる。

 

 このは、きっと(僧たちが)起こそうとするだろうと待っていると、「もしもし、起きてください。」というのをうれしく思ったが、たった1回(起こされただけ)で返事をするのも、待っていたかのようにも思われると考え、もう一度呼ばれてから返事しようと我慢する。

 

 しかし、「こらこら、起こして差し上げるな。幼い人(児)は寝てしまったんだ。」という声が聞こえ、ああ困った、もう一度起こしてほしいと思い、寝ながら聞いていると、むしゃむしゃとただ食べる音がして、

 

 どうしようもないので、はずいぶん後になって「はい。」と返答したら、僧たちは笑い続けた。

 

 

〈まとめ〉

・時代:鎌倉時代

・場所:比叡山延暦寺

・時刻:日没後すぐ

 

◆暇になってお腹がすいた僧たち

「ぼた餅を作ろう」

 …当時は朝昼2食しか食べていなかった

児:ぼた餅の完成を期待する

 

◆完成までの行動

児:完成するまで起きているのはぼた餅食べたい感出て格好悪いか…?

寝たふりをして完成を待つ

 

◆ぼた餅完成後

児:完成したけど誰か起こしてくれるだろう

          ↓

僧:「もしもし、お目覚めになって下さい」  *1

 

・児の葛藤

 一度で起きる=待っていました感が出てよくない

 ↓

 もう一回起こされたら起きよう

 

・しかし、、、

 別の僧:「もう児は寝ている。起こして差し上げるな。」

 ↓

 起きるタイミングがなくなり、声掛けからかなり遅れて返事

 ↓

 僧が爆笑

  …相手にどう思われるかを気にして大人びた態度を取ろうとしたが、結局はぼた餅食べたさに返事をしてしまう児の子供らしさ

 

 

〈余談〉

*1  

僧:「もしもし。お目覚めになって下さい。」

原文:「もの申しさぶらはむ。おどろかせたまへ。」

 

この部分に違和感を感じる方もおられると思います。

勉強のために寺に預けられている子供に対して、年上である僧が敬語表現を使っているのです。

この疑問に対して一般的な回答は「児が武士の子孫等の出自で僧よりも身分が高かった」で通用すると思われます。

 

しかし、時代特有の事情をもって考察することも一説としてあります。

当時の寺は女人禁制、つまり、寺にはある程度の年齢の男性しかいません。

その中に混じって生活する幼い男児というのは、現代でいうアイドル的な存在であったり、もしくは、性的な対象として見られているという考え方も不可能ではないでしょう。この場合では、児の出自に関係なく、僧たちが敬語を使うのは何ら不思議ではありません。さすがに自分の推しに対して、目下のような扱いはしないですよね。