萩尾望都の作品には様々なテーマが扱われていますが、その多くのテーマの根本に、「排斥」のテーマがあると考えています。
この「排斥」という根本テーマは、多様な領域で表現されます。
「社会」、「家族」、「個人の意識」、「非日常(祝祭)」、「恋愛(共感)」などです。
このページでは、「社会」という領域において「排斥」がどのような具体的なテーマとなり、どのようなモチーフ(設定、構図)が使われ、どのような物語になり、具体的にどの作品でそれが描かれているがについてまとます。
少し抽象的な話になりますが、作品論のページを読む上での解釈の枠組みになります。
萩尾作品は、基本的に「排斥」に否定的で、「排斥される者」に同情的に描かれます。
そして、萩尾作品の歴史は、各作品で発見した問題を継承し、「排斥」をなくすことができないかという根本問題の解決を追求した歴史です。
<社会における排斥>
「社会」という領域における「排斥」は、「社会」がその価値観に合わない「異質な者」を「差別」し、「排除」するというテーマとして現れます。
「社会」はこの「排斥」によって秩序を保ちます。
西洋中世の魔女狩りは、この分かりやすい例です。
萩尾作品の中には、魔女狩りを意識してか、「排斥」のことを「狩る」という言葉で表現する作品(「精霊狩り(精霊シリーズ)」、「小鳥の巣(ポーの一族)」)もあります。
萩尾作品では、「超能力者」、「バンパイヤ」、「不死者(不老者、長寿者)」、特別な能力・性質を持つ者などが「排斥される者」の象徴となります。
具体的な作品の例では、「精霊シリーズ」の精霊、「あそび玉」の超能力者、「ポーの一族」のバンパイヤ、「スター・レッド」の火星人・超能力者、「バルバラ異界」の火星人の遺伝子を持つ者・エズラ族です。
萩尾作品の多くでは、「異質な者」は身体的に特徴を持っている者として描かれます。
目の色が違う(赤い、万華鏡色、金虹色、真っ青…)、髪の毛の色が違う(真っ白、黒い、メッシュ…)といったモチーフです。
具体的な例だと、「スター・レッド」の火星人の赤い目と白い髪、「一角獣種シリーズ」の一角獣種の赤いたてがみ、超能力者モリのカレイドスコープ・アイ、「銀の三角」のパントー人の金虹色の目などです。
一方、「排斥」する者は、「ポーの一族」のように民衆であったり、「スター・レッド」のように何らかの管理委員会や、それに属する管理者だったりします。
別のページで扱いますが、「排斥する者」は、常に、それを自分の内面でも行うので、「自己否定する者」になります。
また、これも別のページで扱いますが、「愛(恋愛)」が、この「排斥」をなくすものとして描かれます。
「社会」における「排斥」のテーマは、次のような多様な物語になります。
「精霊シリーズ」には、「排斥」を乗り越える「愛」の物語、そして、それが完遂できない「失恋」の物語があります。
「あそび玉」には、「追放」の物語、「家族との別れ」の物語、また、「故郷への帰還」の物語があります。
「ポーの一族」は、基本的には「排斥される者」の「潜伏」、「逃走」の物語です。
また、「百億の昼と千億の夜」や「スター・レッド」では、「排斥する者」と「排斥される者」との「戦い」の物語になります。
<存在への問い>
萩尾望都は、大人と子供の端境期の14才頃に「レゾンデートル(存在理由)」について考えたそうです。(「一度きりの大泉の話」)
「自分で自分を許せる「レゾンデートル」をみつけたい、と思っていた」のだそうです。
社会に「排斥される者」は、この「レゾンデートル」、言いかえれば「存在への問い」について考えざるをえません。
萩尾作品でも、「排斥される者」がこの「存在への問い」を発します。
「精霊シリーズ」のダーナは「どこから来たのか」と問いました。
「ポーの一族」のエドガーは、「なぜこうして生きているのか」と問いました。
「百億の昼と千億の夜」では、輪転王が「存在への願い」、「生き抜くことへの願い」を込めて阿修羅王らを育てて戦わせました。
「スター・レッド」のセイは、「存在すること自体が悪」と言われて、「無には無の、死には死の意味があるかもしれないから」と言って戦いました。
<故郷のモチーフ>
「存在への問い」の「どこから」の答えになるのは「故郷」です。
「あそび玉」では超能力者の故郷は「地球」とされ、「スター・レッド」では「火星」になり、「銀の三角」では地球の「ユーフラテス」となり、「マージナル」ではユーフラテス近郊の「海」になり、「バルバラ異界」では「火星の海」になりました。
<不老不死のモチーフ>
「異質な者」の特徴である「不老」、あるいは、「不死」、「長寿」、「若返り」というモチーフは、「異質な者」の世界・時間と普通の人間のそれが異なることの表現です。
「精霊シリーズ」や「ポーの一族」、「バルバラ異界」や、「ハーバル・ビューティー」の夜来人香人の女性にはこの表現があります。
ですが、その一方で、「異質な者」は、自身の中に「自己否定」という側面を持っています。
すると、「不死性」は、「異質なるもの」と「排斥」の矛盾が存在し続けることの表現にもなります。
つまり、その矛盾の「永遠性」、「不可避性」です。
例えば、「ポーの一族」の永遠の逃走や、「百億の昼と千億の夜」の阿修羅王の永遠の戦い、「スター・レッド」の永遠に閉じ込められた解放者であるエルグ、「銀の三角」の地球に戻ったマーリー2=エロキュスの永遠に存在し続ける不安の夢などは、このようにも解釈できます。