萩尾望都の作品には様々なテーマが扱われていますが、その多くのテーマの根本に、「排斥」のテーマがあると考えています。
この「排斥」という根本テーマは、多様な領域で表現されます。
「社会」、「家族」、「個人の意識」、「非日常(祝祭)」、「恋愛(共感)」などです。
このページでは、「家族(家庭)」という領域において「排斥」がどのような具体的なテーマとなり、どのようなモチーフ(設定、構図)が使われ、どのような物語になり、具体的にどの作品でそれが描かれているがについてまとます。
少し抽象的な話になりますが、作品論のページを読む上での解釈の枠組みになります。
萩尾作品は、基本的に「排斥」に否定的で、「排斥される者」に同情的に描かれます。
そして、萩尾作品の歴史は、各作品で発見した問題を継承し、「排斥」をなくすことができないかという根本問題の解決を追求した歴史です。
<家族における排斥>
「家族」という領域における「排斥」は、家族の中の誰かが、愛されず、批判されるというテーマとして現れます。
「家族」は「社会」の縮図であるため、「社会」の「排斥」が「家族」の「排斥」に反映します。
社会的模範、権威の体現者としての「親」は、「家族」の中では「排斥する者」になります。
家族の中でも、「排斥する者」は、それを自分にも内面化した「自己否定する者」です。
子の「自己否定」、特にその病的な形は、親の「自己否定」やその病的な形から継承されます。
「残酷な神が支配する」には、「子供は親の神への供物であり、親の人生の供養として存在するんだ」というセリフがあります。
「親」もかつては「子」だったので、この関係は何代も継承されることになります。
「自己否定する親」の典型は、不当に厳しい親、あるいは、虐待する親というキャラクターです。
具体的な作品の例は、「イグアナの娘」のリカの母ゆりこ、「残酷な神が支配する」のナディアの母クレア、同じくジェルミの義父グレッグなどです。
親ではないけれど、それに類する人物が虐待する設定の例は、「トーマの心臓」のユーリの上級生サイフリート、「メッシュ」のメッシュのボスなどです。
また、両親が実の両親でないという設定も、「自己否定」する子を生みます。
「11月のギムナジウム」のトーマ、「ポーの一族」のエドガーなどです。
また、父に捨てられるという設定も、「自己否定」する子を生みます・
「メッシュ」のメッシュ、「バルバラ異界」のキリヤなどです。
また、母がいない、あるいは、母に裏切られるといった設定も、「自己否定」する子を生みます。
「メッシュ」のメッシュ、「残酷な神が支配する」のジェルミなどです。
「父」と「母」が対照的な象徴的意味を持って描かれる場合もあります。
その場合、「父」は「排斥」を教え、それを象徴する存在です。
一方、「母」は、「排斥したものを愛する」ことを教え、それを象徴する存在です。
「母」が不倫をするなどして「父」などから批判され愛されない設定は、父と母が対照的な象徴性を持っている傾向が強い設定です。
この場合、「子」は「自己否定する者」になります。
具体的な作品の例では、「11月のギムナジウム」のエーリク、「トーマの心臓」のユーリ、「ポーの一族」のエドガー、「X+Y(一角獣種シリーズ)」のタクト、「メッシュ」のメッシュ、「残酷な神が支配する」のグレッグ、イアン、「バルバラ異界」のキリヤなどです。
親との関係で、「自己否定する者」になった子の物語は、たいていは、家族以外の誰かに愛されることによって救われる、という「愛による解放」の物語となります。
具体的な作品の例では、「トーマの心臓」のユーリ、「X+Y(一角獣種シリーズ)」のタクト、「メッシュ」のメッシュ、「イグアナの娘」のリカ、「残酷な神が支配する」のジェルミなどです。
あるいは、親の立場を理解することで、それを受容するという要素がそこに加わる場合もあります。
「メッシュ」のメッシュの対父親、「イグアナの娘」のリカの対母親、「残酷な神が支配する」のイアンの対父親などです。
<兄弟・姉妹のモチーフ>
また、萩尾作品では、「家族」においては、「兄弟」、あるいは「姉妹」が対照的な性格を持ったキャラクターとして描かれることが多くあります。
この対照性を際立たせるために「双子」、さらには、「結合双生児」という設定になる場合もあれば、緩めに「義兄弟」、「友人」という設定になる場合もあります。
そして、その性格の対照性は、堅実(真面目)/奔放(無垢・天真爛漫)、ポーカーフェイス/感情豊か(短気)、有能/無能、醜い/美しい、親に嫌われる/可愛がられる、といった形になります。
前者は「排斥」を体現した「自己否定的」なキャラクターであり、後者は、「排斥」をあまり体現しない「自己解放的」なキャラクターです。
ただし、醜い/美しい、親に嫌われる/可愛がられるといった対照性は、逆に設定される場合もあります。
具体的な作品の例では、「11月のギムナジウム」のトーマとエーリク、「半神」のユージーとユーシー、「イグアナの娘」のリカとマミ、「残酷な神が支配する」のエリックとバレンタイン、同じく、ナディアとマージョリー、「ポーの一族」新シリーズのフォンティーンとバリーなどです。