「一角獣種シリーズ」は、「A-A‘」(1981)、「4/4カトルカース」(1983)、「X+Y」(1984)の3部作として描かれたSF作品です。
このシリーズは、感情を抑制するように作られた、つまり、「自己否定する者」となった、遺伝変異種である「一角獣種」の男女の、恋愛による「解放」の物です
一角獣種は、「赤いたてがみ」のような髪をしていて、これが感情の封印、あるいは、感情を秘めていることを象徴しています。
これは「赤い一角」とも言いかえることができますが、これは「スター・レッド」のセイの「赤い」目と、エルグの「一角」を合わせたような設定です。
そして、その物語には、「スター・レッド」が提示した課題を展開するという側面があります。
第一作は完結した作品で、男女それぞれのクローンが登場し、「代わり」というモチーフがつけ加わります。
第二作と第三作は、登場人物が一部重なる連作です。
第二作が悲劇的であるのに対して、三作目では、その失敗の経験をもとにハッピーエンドになります。
第二作からは、「自己否定する者」同士の「相互の解放」というモチーフがつけ加わり、第三作では、「内なる女性性の解放」、「封印された記憶の解放」のモチーフがつけ加わります。
第一作「A-A‘」では、男性レグ・ポーンが、一角獣種の女性アデラド・リーの隠れた感情に気づき、恋愛関係になり、アデラドの感情が「解放」されます。
ですが、アデラドが事故死し、クローンのアデラド2が現れ、レグはアデラド2との関係を再度、築こうとします。
ですが、偶然、アデラドの死体を発見していまいます。
現状に耐えられなくなったレグは別れを決意し、旅立ちますが、その時に事故死します。
そして、クローンのレグ2がアデラド2の前に現れます。
アデラド2は、レグが亡くなったこと、レグ2が現れたことで、レグへの感情に気づき、感情を「解放」します。
「A-A‘」には、感情を「抑制する者」、「自己否定する者」の、「解放の物語」です。
と同時に、失ったものの「代わり」のテーマがあります。
アデラドは若くして両親を亡くしていて、黒馬のポニーがその「代わり」となりました。
黒髪と思われるレグはさらにその「代わり」であり、レグ2はさらにその「代わり」です。
レグにとっては、アデラド2がアデラドの「代わり」です。
この「代わり」のモチーフは、「ポーの一族」のエドガーにとてってメリーベルの「代わり」がアランであったことや、「スター・レッド」のエルグにとってセイが故郷の惑星の「代わり」だったことを継承しています。
<4/4カトルカース>
第二作「4/4カトルカース」は、一角獣種の女性トリルが、男性はモリとの恋愛によって感情を「解放」します。
ですが、モリは、超能力者で、カレイドスコープ・アイを持っています。
そして、幼い時に超能力で破壊的な事故を起こしたことがあるため、超能力を封印しています。
つまり、男性のモリの方も、「異質なる者」、「自己否定」する者であって、それを象徴する身体的特徴(カレイドスコープ・アイ)を持っています。
そして、モリの方も、トリルと一緒にいることで超能力が「解放」されますが、コントロールができません。
トリルの方も「解放」された感情のコントロールができず、最後には、トリルの恐怖が爆発して事故死します。
「自己否定する者」同士の「相互の解放」というモチーフは、「11月のギムナジウム」や「スター・レッド」にもありますが、「4/4カトルカース」では、このモチーフがより明確になっています。
そして、このモチーフは、第三作に継承されます。
<X+Y>
第三作「X+Y」では、モリと、新たな一角獣種の男性タクトの物語です。
タクトは、父が性転換薬の研究者で、母は一時的に女性になった男性です。
タクトは性別が不安定で不定期で変わる体質で、ほぼ男性として育ってきたので、自分を男性だと思っていますが、現在、遺伝子的には女性になっています。
そして、父が母(だった人物)を殺して、タクトのその記憶を封印しました。
つまり、タクトは、感情、母の亡くなった記憶、内なる女性性と、3重の抑圧をしています。
一角獣種のタクトは、トリルと同様に、アルファ波を多く出すため、モリの超能力を引き出します。
モリはタクトを愛していますが、タクトは自分を男性と思っていて別の女性を愛していました。
二人はカイトで飛行をしますが、モリの感情の暴走で事故を起こして「墜落」します。
感情暴走による事故という点で、モリはトリルの時の失敗を繰り返したことになります。
ですが、タクトの精神に「共鳴」してその遭難場所を特定します。
そして、タクトが持っていた衛星が迫りくる恐怖のイメージを、モリがカイトで救いに来るイメージに変えました。
タクトには、モリが「翼」をつけたイカロスに見えました。
モリは、トリルの時の失敗を糧にして、今回は成功しました。
「X+Y」には、多くの過去作から継承されている「飛行/墜落」や「翼」のモチーフがあります。
「小鳥の巣(ポーの一族)」では、ロビンが天使に向かえに来てもらうことを幻視して転落死しますが、タクトは同様の幻視によって助かります。
「小鳥の巣」では、エドガーとアランによる迎えが間に合わず、「4/4カトルカース」でもモリによる救援が間に合いませんでした。
ですが、「X+Y」では、間に合いました。
「X+Y」では、「否定的なイメージ(迫りくる惑星)」を「肯定的なイメージ(迎えに来るイカロス)」に変えしたが、この「否定的な夢/肯定的な夢」のモチーフは、「スター・レッド」から継承したものです。
「スター・レッド」のエルグは、セイを「否定的な夢」に囚われて死なした失敗の後、夢魔が巣食う惑星に「肯定的な夢」を与えました。
モリも、第二作でトリルを死なした失敗の後、タクトに「肯定的な夢」を与えることに成功しました。
第一作のレグは超能力は持たずとも一角獣種の隠れた感情に気づきましたが、タクトは超能力の「共感」能力、「共鳴」能力によって、一角獣種の感情を理解しました。
この「超能力」、あるいは、それに類する「共鳴」の特殊能力による解放というモチーフは、「海のアリア」や「バルバラ異界」に継承されます。
この事件をきっかけに、タクトはモリを好きになり、女性になることを受容します。
また、モリは、タクトの父が母を殺した記憶が封印されていることに気づき、それを思い出させます。
この時、母の死の際の、恨んでにらみつける母の目の「否定的」なイメージの記憶を、目を閉じたイメージに、優しい母の記憶に変えることに成功します。
事故の時の迫りくる衛星の背後には、この母の目があったのです。
イメージの取り替えは2度目です。
このようにして、二人は、愛を媒介にして、互いに、能力や記憶、自分のあり方の受容などの「解放」し合います。
そして、モリは、超能力のコントロール能力、「否定的な夢」から「肯定的な夢」への変更を身に着けていきました。
また、タクトは自分の思考や欲望が、タクトに影響を与えてしまう、暗示をかけてしまうことを何度も気にします。
これらは、「スター・レッド」で提示された課題のモチーフです。
モリは、セイやエルグができなかったことを行う可能性を示しました。
この意味で、「一角獣種シリーズ」には「スター・レッド」の続編的性格があります。
また、モリはタクトに母の記憶を思い出させましたが、この「封印された記憶の解放」のモチーフは、「マージナル」、「海のアリア」に継承されま
<女性性の問題>
「百億の昼と千億の夜」や「スター・レッド」では、主人公の女性が「排斥」されることを拒否する「戦う」存在でした。
ですが、「一角獣種シリーズ」の女性(内なる女性)は、「排斥」されていて(感情を抑制していて)、「解放」されるべき者となりました。
また、「トーマの心臓」でも「スター・レッド」でも、感情や超能力を抑制していて、解放されるべき者は男性でした。
ですが、「一角獣種シリーズ」は、女性になりました。
「一角獣種シリーズ」で焦点となる人物であるタクトは、母を失った、殺された女性です。
「母」は、「本来的な自分」、感情の象徴であり、母の死は「排斥」の象徴です。
母の死の記憶をなくすことは、「排斥」の記憶の「排斥」であって、「排斥」の完全した姿です。
タクトが母を失っていることと、女性であるのに男性であると思っていることは、つながっています。
タクトの隠された「内なる女性性」は、亡くなった母と同じく「排斥されたもの」を象徴します。
父が母を殺したというモチーフは、「訪問者たち」から継承し、「残酷な神が支配する」のグレッグに継承されます。
亡くなったあるいは別居して母を欠いているモチーフは、「スター・レッド」のセイ、「メッシュ」のメッシュから継承し、「マージナル」のキラに継承されます。
自分を男性と思っているが女性である、または、女性になるといった「内なる女性性の解放」のテーマは、「11人いる」から継承したもので、「X+Y」のすぐ後に描かれた「ハーバル・ビューティ」や「マージナル」に継承されます。
また、「銀の三角」のモーリー2の中のエロキュスも一種の内なる女性性です。
モリがタクトに母の記憶を思い出させたことは、ラグトーリンがマールー2にエロキュスの聴いた音楽を思い出させたことに似ています。
この「封印された記憶の解放」のモチーフは、「マージナル」、「海のアリア」に継承されます。
