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萩尾望都の諸作品のテーマと継承

萩尾望都の諸作品の解釈とテーマやモチーフの継承について、萩尾望都作品論。

「モザイク・ラセン」(1982)は、「銀の三角」の後に発表されたSF連載作品です。


この作品の特徴は、対照的なもう一つの世界が舞台となり、「排斥する/される」という人格の反転を体験することです。

 




<対照的な二世界>


「モザイク・ラセン」は、我々の世界とは別の世界が舞台です。
普通の少女であるミラは別の世界に行きますが、その世界では「天羽」と呼ばれ、特別な能力を持つ一種の「超能力者」となります。
これはミラだけではなく、2つの世界の性質の違いから生まれます。


萩尾作品では、「超能力者」は、社会にとっての「異質な者」、「排斥される者」です。
そして、「本来的な自分」を秘めた者、あるいは、それが顕在化した「自己否定しない者」、「解放された者」の象徴です。


ミラがこちらの世界で普通の少女ということは、こちらの世界のミラとは、ミラの「意識的な人格」、つまり、「排斥」している人格、「自己否定する者」ということです。


ですが、もう一つの世界に行くと「超能力者」になるということは、もう一つの世界のミラとは、ミラの「本来的な自分」、「自己否定しない者」であるということです。


ですから、この作品は、向こうの世界に行くことで、人格の逆転を体験します。

 


<ラドリと向こうの世界のミラ>


ミラはこちらの世界では普通の人間であり、こちらの世界の「超能力」を持つ少年のラドリを好いています。
ラドリは最初、ミラの夢の中に登場して、ミラに助けを求めます。


夢を共有するというモチーフは、「バルバラ異界」にも継承されます。


ラドリはミラの「本来的な自分」の投影でもあり、ミラは「本来的な自分」を志向しているのです。


ミラの魂は、もう一つの世界に体ごと囚われたラドリを取り戻すために、もう一つの世界に行きます。
つまり、ミラは「本来的な自分」を求めることが原因となって、「本来的な自分」の側を体験することになるのです。


この向こうの世界では、飛行し、超能力を持つことからくる「自由」を体験します。
ミラの魂は、向こうの人間からは見えない点でも「自由」です。


ですが、向こうの世界の黒の王ライガンに捕まって、利用(排除)される存在になります。


向こうの世界では、異世界から来たミラらを「天羽の鳥」と呼びます。
ミラは夢の中でも翼を持っています。


この「本来的な自分」の「解放」の象徴としての「翼」や「飛行」のモチーフは、多くの萩尾作品で見られます。

 


<黒の王>


黒の王ライガンは、太陽が月に隠れる食の闇の中で力が強まる「悪夢」に食われることを恐れていました。
「天羽」は光を放つ存在であり、王はそれから守るために利用しようとしました。


「悪夢」は否定的な夢であるので、「天羽」は本来的な肯定性を表現しています。


「悪夢」のモチーフは、「スター・レッド」の「夢魔」から継承したものです。
また、光と闇の対立のモチーフは、例えば、直前の「銀の三角」でも、パントーの儀礼から継承しています。


黒の王ライガンが権力志向になった理由は、失恋とされます。
これは、「スター・レッド」が示した、否定されることで否定的・破壊的な感情が生まれることを継承しています。

 


<他のモチーフ>


「モザイク・ラセン」では、音叉のA音による共鳴が「天羽」を解放します。
そして、それがきっかけになって、黒の王は「悪夢」に食われ、ミラとラドリはこちらの世界に戻ってきます。


音、音楽のテーマも、「銀の三角」から継承したモチーフであり、「海のアリア」にも継承されます。

 


「モザイク・ラセン」の2つの世界は、「ラセン」と呼ばれる空間でつながれていて、そこには「悪夢」の塊も存在しています。
タイトルにある「モザイク」については、作中には何の説明もありません。


ですが、「銀の三角」の世界観では、宇宙はモザイク状に構成されていて、「悪夢」がそれを破壊するものですので、それを継承しているのでしょう。

 


「モザイク・ラセン」では、体が一体の結合双生児であるシェジュ兄弟が登場します。
弟は美しく、兄は醜い姿をしています。


美醜が対照的な結合双生児のモチーフは、「半神」に継承されます。
また、美醜が対照的な兄弟というモチーフでは、「ポーの一族」の新シリーズに継承されます。