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萩尾望都の諸作品のテーマと継承

萩尾望都の諸作品の解釈とテーマやモチーフの継承について、萩尾望都作品論。

「マージナル」(1985)は、「一角獣種シリーズ」や「メッシュ」の後に描かれたSF長編です。


「マージナル」には、過去の諸作から多数のモチーフが継承されていて、この時点での総決算的な意味を持つ作品ではないかと思います。


例えば、物語の舞台が地球のユーフラテスということで、「銀の三角」のラストを継承しています。
「銀の三角」で文明を始めた人類(エロキュス)の子孫の話というわけです。
その意味では、「銀の三角」の続編です。


「マージナル」の主人公キラは、火星のクリュセからやってきた博士の超能力を持った子で、地球で隠れて育ちました。
これは、「スター・レッド」の主人公セイが、火星のクリュセ地下で生まれて地球で隠れて育った超能力者であるという設定とほとんど同じです。
その意味では、「スター・レッド」の新ヴァージョンです。


また、舞台となる地球の人間が、子供を生めない非生産的集団という点では、ポーの一族と同じですが、「マージナル」ではこれが解決すべき問題として描かれます。


そして、物語の底には、「トーマの心臓」以来の愛による解放のテーマと、「スター・レッド」以来の、「否定的な夢」を避け「肯定的な夢」を見るというテーマが流れています。


「マージナル」の物語は、個人の自己否定、人間の不毛と復活、地球の不毛と復活と解放が、連動するような構図になっていることが特徴です。
そして、愛による解放、肯定的な夢による転換が、人間と地球の復活の希望を導きます。

 




<モノドールと委員会>


「マージナル」は未来の地球の物語です。


地球は、科学技術の弊害で、菌類に派生するウィルスが発生し、海・川は菌類に汚染されて赤くなり、自然の水は飲めなくなりました。


不毛の赤い星になった地球は、第二の火星のようです。


人間がウィルスに感染すると、男性だけが抗体を作ることができましたが、女性は不妊になりました。
そのため、月の女性の卵子を使って人口受精で作られた男性のみが暮らしていました。
地球の男性は、30歳を越えるといっきに老化します。


この「男性のみ」、「老化」ということは、「自己否定する者」の象徴的性質です。


地球の人間が、子供を生めない集団ということでは、ポーの一族と同じです。
「ポーの一族」では、この非生産性は、デカダンスな美意識のもとで描かれますが、「マージナル」では解決すべき病的状態として描かれます。


また、男性だけというモチーフは、「ポーの一族」新シリーズのルチオ一族に継承されます。
そして、「老化」のモチーフは、「バルバラ異界」に継承されます。

 


人間は、科学技術で人工的に管理された都市「モノドール」とその周辺に住んでいました。
この都市は、月からきた人間で構成された「センター」によって、実験的なプロジェクトとして運営されていました。
カンパニーの「地球開発委員会」が、「センター」の管理グループでした。


ですが、このことを知る人間はごく一部だけで、ほとんどの人々はそれを知らず、古代・中世的なレベルの文化で暮らしていました。


プロジェクトは、地球の人間の再生の可能性を探すプロジェクトでしたが、成果がなかったため、プロジェクトの終了が決まっていました。
子供は配給制でしたが、そのため、子供は徐々に減らされ、モノドールは滅びへの道を歩んでいました。
人口は減少しているので「マージナル(限界)」とも呼ばれます。


管理者(排斥者)としての「委員会」というモチーフは、「百億の昼と千億の夜」、「スター・レッド」を継承するものです。
そして、「滅びへの道」としてのプロジェクトというモチーフは、「百億の昼と千億の夜」から継承したものです。

 


モノドールは女性がいない社会であるため、少年の年齢になると女性ホルモンが増えて女性のようになります。
この時期を色子と呼びますが、色子は成人男性の念者と性的な関係を結びます。


「センター」は、色子の少年の一人を選んで、手術でホウリ・マザと呼ばれる女性の外見の存在にします。
そして、このマザが子を生むのだという信仰が作られ、運営されています。


この「内なる女性性」のモチーフは、「11人いる!」や「スター・レッド」、「一角獣種シリーズ」、「ハーバル・ビューティ」から継承したものです。

 


<イワン博士と4人のキラ>


モノドールのあるユーフラテス近郊の森に、火星のクリュセ大学出身のイワン・アレクサンドルとその妻が逃げてきました。
イワン博士は生物学の博士で、エゼキュラ因子という超能力遺伝子を使った違法な研究を行ったため、カンパニーに追われて来たのです。


火星のクリュセ、超能力、地球で隠れて暮らす、といったモチーフは、先に書いたように、「スター・レッド」から継承するモチーフです。


イワン博士の母は、父に無理やり犯され、大きな恐怖を感じ、自殺しました。
そのため、「母性」や、「恐怖」をなくす課題が研究の動機になっていました。


母が父から殺された、虐待されたといったモチーフは、「X+Y(一角獣種シリーズ)」、「訪問者たち」といった近作から継承したものです。
これは、母が父から批判されていたという「11月のギムナジウム」などのモチーフを強めたもので、その子は、「排斥された者」であり、「自己否定する者」となります。


イワン博士は、人間が、大脳新皮質や、視床下部などの原始の脳、子宮といった部位によって異なる人格を持つと考えました。
恐怖を生み出すのは原始の脳であり、その下の「母性」である「子宮」には純粋な生命の意志があるのです。
前者は「否定的な夢」を、後者は「肯定的な夢」を生み出します。


これは、「スター・レッド」で、エルグが母だけが純粋な愛(肯定的な意志)を持つと発言し、ヨダカが自分の体に子宮を作ってセイを復活させたことを継承しています。


そのため、イワン博士は、秘密裏に、恐怖心を持たず、無限の共感能力(超能力)を持つ子供、つまり、「子宮」が見る美しい夢を共有する子供を作ろうとしました。
そして、エゼキュラ因子を持つ4人のクローンの子供キラを作り、夫妻と6人で生活をしていました。


6人の共同生活は、最初は理想的なものでした。
4人の中の一人が赤ん坊のままで心の中心となり、個々の人格を持たずイワンと同じ夢を共有しました。


キラは本質的に両性具有で、イワン博士はキラと自分の間で子供が生めるか実験しようとしました。
キラは本心ではこれを嫌がりましたが、イワン博士の意志に共鳴しました。
ですが、母は、イワン博士を理解できず、共有の夢から離脱しました。 


ですが、キラ達は、母にも同じ夢を望み、「異質なもの」、「個」の存在を許しませんでした。
そのため、母は逃げ出しました。


キラ達は「集合意識」を形成していたわけですが、この「集合意識」と、これが異質なものを受け入れない、それから逃げ出す、というモチーフは、「ハーバル・ビューティ」から継承しています。
遡れば、「スター・レッド」で指摘された、超能力が他人に影響を与えてしまうという問題です。


また、イワン博士はキラ達の実父ではなく義父であり、母を欠くようになったという点では、地球で義父に育てられた「スター・レッド」のセイと同じです。
このモチーフは、「本来的な自分」を失っていることの象徴となります。


キラ達は4人いましたが、この「4」のモチーフは、「銀の三角」から継承し、「バルバラ異界」に継承されます。


また、一人のキラは、赤ん坊のように眠り続けながら、4人の意識の中心的存在でした。
この「眠り続ける」というモチーフは、「精霊シリーズ」のルトルや「ポーの一族」から継承し、「バルバラ異界」の青羽、「ポーの一族」新シリーズのフォンティーンに継承されます。


「眠り」は、「本来的な自分」の根源であり、「マージナル」で言えば、「子宮」の意識に相当します。


イワン博士は実験の失敗を感じ、無意識のうちに死を望みました。
そして、キラ達は、イワン博士の「死の夢」に共鳴しました。
そのため、「委員会」がイワン達を見つけて攻撃した時、キラ達はそれを予知したにも関わらず、逃げませんでした。


この「集合意識」による「集団自殺」というモチーフは、後で書くように、もう一度出てきます。
また、このモチーフは、「海のアリア」に継承されます。


ですが、イワン博士は、攻撃の直前にこれに気づいて、逃げろと叫びました。
博士が、滅びへの道を最終的に否定し、「生」を選択したことは、大きな意味を持ちます。


ですが、助かったのは2人のキラだけで、その1人は半死の状態で氷の中に閉じ込められた。
キラ達は、イワン博士に、最期に手のひらを返されて裏切られた、ひどい目にあったと同時に、父殺しをしたことになります。
そして、この時の記憶を亡くします。


記憶を失くすモチーフは、「一角獣種シリーズ」から継承したもので、「海のアリア」に継承されます。

 


<グリンジャとアシジン>


生き残ったキラは記憶を失ってドーム周辺部をさまよっていて、グリンジャに保護された後、色子としてアシジンに売られました。
キラは優しいグリンジャには懐いていましたが、主人となったアシジンは嫌っていました。
ですが、やがてアシジンにも懐くようになりました。


キラは、二人の側にいると、ある程度、超能力のコントロールができました。


キラは父のせいでひどい目にあい、その後に出会った男性に助けられたのですが、同種のモチーフは、「メッシュ」、「一角獣シリーズ」から継承したもので、「残酷な神が支配する」に継承されます。
「マージナル」では、この相手が2人いる点が特徴です。


また、キラとアシジンの、主人に隷属する関係の拒否のモチーフは、「海のアリア」のカインとアリアドに継承されます。


愛する者(肯定してくれる者)の側にいると超能力や感情をコントロールできる、というモチーフは、「一角獣種シリーズ」から継承しています。


グリンジャはその後、主人ではないのにキラを奪ったとして追放されました。
そして、大火災で滅んだサハラ・シティの生き残りで、死に場所を探してモノドールに至った聖者達と道連れになって、滅亡という「否定的な夢」を見るようになります。
その一方で、自分を持たないキラに、自分の夢を見ろと教えます。


一方のアシジンは、世界の豊かな未来を信じ、「肯定的な夢」を見る人物です。
そして、キラには、超能力のコントロールをするように教えます。


「否定的な夢」を避け、「肯定的な夢」を見ることは、「スター・レッド」で導入され、「X+Y(一角獣種シリーズ)」に継承されたテーマです。
「マージナル」では、何組かの対照的な人物などとして、これが象徴されます。
グリンジャ/アシジンもその一つです。


キラは本質的には両性具有でも、通常の外観は男性で、グリンジャと寝た時に、女性の体になり受胎しました。
キラは、人を不妊化するD因子を不活性化する遺伝子を持っていたのです。


男性が女性になり受胎するというモチーフは、「スター・レッド」のヨダカを継承します。
キラにも、先に書いた「内なる女性性」のモチーフがあります。

 

長くなりましたので、「マージナル2」に続きます。