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萩尾望都の諸作品のテーマと継承

萩尾望都の諸作品の解釈とテーマやモチーフの継承について、萩尾望都作品論。

マージナル1」からの続きです。

 



 

<メイヤード>


「センター」の長官のメイヤードは、「スター・レッド」の火星人研究の責任者ベープマンとそっくりの外見をしています。
つまり、「排斥(管理)」する人間です。


ですが、彼はエゼキュラ因子という超能力の遺伝子を持っています。
しかも、メイヤードは、遺伝子上の主人公のキラの父親なのです。


つまり、メイヤードは、「異質な者」、「排斥される者」、「自己否定する者」でもあるのです。
そのため、メイヤードは、苦悩や迷いを持つ「排斥者」なのです。


この点で、「マージナル」は「スター・レッド」と異なります。
つまり、「スター・レッド」では「排斥する者」と「排斥される者」が二項対立する構図でしたが、「マージナル」ではこれが崩されています。


また、メイヤードには、エルグと似た点があります。
メイヤードは超能力を潜在的に持つ「委員会」側の人間で、エルグは超能力を(部分的にですが)封印した「委員会」に従う存在でした。


ですから、メイヤードは、ベープマン、あるいは、「委員会」の異星人と、エルグの合体キャラクターのような存在なのです。


メイヤードやキラが持つ超能力因子は、これを持つ者を教祖的な中心とした集団に、集団自殺が生み出されることが分かっています。
ここにも、「集団自殺」のモチーフがあります。


また、メイヤードはこの、管理させるべき因子を持つため、自分を愛される資格のない者であると考えています。
そのため、「委員会」のメンバーのナースタースを愛しているにも関わらず、彼女の求愛を拒否していました。


この愛を封印する人物というモチーフは、「トーマの心臓」のユーリや「メッシュ」のメッシュを継承し、「残酷な神が支配する」のジェルミに継承されます。


そして、メイヤードは、超能力因子を持つため、視覚障害や進行性の病気を多数持ち、女性ホルモンの投与が必要な体です。


つまり、彼は「自己否定する者」ゆえに、「本来的な自分」の象徴である「女性性」を欠く者なのです。
これは自らが管理する都市の人間と同じであり、彼が病んでいるのは、地球が病んでいるのと同じです。

 


<海の生命律動>


都市周辺には、ホウリ・マザに疑問を持つ一派がいて、ホウリ・マザや市長、長官らの暗殺、さらには、都市の水路の破壊を企てました。
グリンジャもその一味であり、アシジンもそれに加えられました。


「百億の昼と千億の夜」、「スター・レッド」では、こういった反逆者が主人公となり、「委員会」と戦いますが、「マージナル」では、彼らは脇役でしかありません。
やはり、「マージナル」は、二項対立的な戦いの構図を取らないのです。


また、老いたホウリ・マザ殺しは、「偽王」の老いた王の追放・王殺しのモチーフを継承しています。


彼らの破壊活動によって、河川の水が都市に吹き出します。
この時、都市の水没と共に死ぬことを望む聖者達がモノドームに至り、キラがこの「否定的な夢」に共鳴してしまい、都市を水没させます。


「否定的な夢」に共鳴するのは、「スター・レッド」のセイと同じです。


キラは水流に流され、海に向かいますが、メイヤードに雇われてキラを狙って追っていた統合型超能力者のセンザイ師が、キラに「肯定的な夢」に共鳴するように言います。


センザイ師は、「スター・レッド」で言えば、ESP研究所の公認エスパーのアン・ジュールに当たります。
ですが、アンは自分の不安をセイに共鳴させてしまい、ESP研究所が破壊されてしまいます。
一方、センザイ師は、彼の力によるとは言えないものの、キラは「肯定的な夢」への共鳴に至ります。


キラは水流に流され、海に引っぱられます。
そして、赤い死んだ海が見る、生命に満ちた青い海の夢、キラを待っていた夢、「生命の律動」に共鳴します。
そして、自分のエネルギーを海に与えて、海を復活させ、そこに溶けいりました。


キラは「否定的な夢」への共鳴を脱して「肯定的な夢」に共鳴したのですが、それは自身の意志によってではなく、「海」の意志によってでした。


また、「海」というモチーフは、かすかにラグトーリンの中に垣間見えたものでした。
この「海」のモチーフは、「海のアリア」、「バルバラ異界」といったこの後のSF長編の中心的なモチーフとして継承されます。


キラが生命の海を復活させたことは、エルグが夢魔の巣食う惑星を復活させたモチーフを継承しています。


ですが、キラの場合、海の「生命の律動」というもっとも基盤にあるものに共鳴した点が重要です。


「生命の律動」という言葉は、「マージナル」で重要なキーワードとして現れますが、これは、「トーマの心臓」のトーマが、「これが僕の心臓の音」といった「心臓」のモチーフにまで遡れるのではないでしょうか。
「生命の律動」のモチーフは、「海のアリア」、に継承されます。


この生命としての「海」は、メイヤードや地球の人間に欠けている「女性性」であり、イワン博士の亡くなった母であり、彼が研究した「子宮」であり、キラの中にある「内なる女性性」と同じものでしょう。


キラは「命を引き替えにした復活」を導いたのですが、このモチーフは、「トーマの心臓」のトーマ、「銀の三角」のパントーの楽師、ル・パントーを継承し、「海のアリア」のダリダン、「バルバラ異界」の青羽に継承されます。

 


<メイヤードとアシジンとナースタース>


メイヤードとアシジンは洪水に流されて、都市の地下で一緒になります。
この時、二人はキラと都市の未来について会話をします。
メイヤードは、キラは死に、都市には未来はなく、自分がプロジェクトを終わらせると語ります。
一方のアシジンは、キラは助かり、都市には明るく豊かな未来があると語ります。


また、メイヤードは、体の各所の治療後があって、自分の体を醜いものだと考えているのですが、アシジンの体を見て、美しいと思います。


このように、メイヤードとアシジンは、「否定の意志」と「肯定の意志」、そして、美醜の点で、対照的人物として描かれます。


また、美醜の対照的人物というモチーフの点では、「半神」の双子を継承し、「ポーの一族」新シリーズのフォンティーとバリーの義兄弟に継承されます。


また、アシジンは若い時、事故を起こしてメイヤードに助けられたのですが、今回は、アシジンがメイヤードを水流から助けました。
対照的な二人が、相互援助するモチーフは、「X+Y(一角獣種シリーズ)」を継承します。


メイヤードは、アシジンとの会話の後で亡くなりますが、最期にナースタースの名を呼びます。
アシジンの肯定性が、メイヤードの愛の肯定、解放を導いたのでしょう。


アシジンはこのことをナースタースに伝え、ナースタースは自分が愛されていたことを始めて知ります。
これによって、ナースタースは、都市のプロジェクトの終了を取りやめ、継続することにします。
ナースタース自身の自己否定から自己肯定への転換が、プロジェクトを「滅びの道」から「生の道」へと変えたのでしょう。


つまり、結果的に、アシジンの肯定性が、メーヤードとナースタースを解放し、プロジェクトの方針変えたのです。


そして、ナースタースは、氷の中に閉じ込められていた第4のキラを再生させ、グリンジャとアシジンのもとに行かせました。
彼らに人間の復活(不妊の克服)の未来が託されたのです。

 


<「スター・レッド」との比較>


地球の人間の復活に関して、超能力遺伝子を使ったイワン博士の実験は成功の期待につながり、それを嫌ったセンター(メイヤード)のプロジェクトは失敗しました。
つまり、「排斥されるもの」こそが創造的なものなのです。


ですが、イワンは博士の実験は、閉じた家族の「集合意識」の中では失敗しました。
キラが経験したように、モノドールという社会の中で、他人との愛を通した成長、「個」の確立が必要なのです。


ナースタースは、この道を選びました。

 

「スター・レッド」で提示された「超能力(集合意識)」と「個」の問題は、キラの成長の中では解決できず、最後のキラに託されました。


主人公のキラが死に、もう一人のキラに未来が託されたのは、「スター・レッド」でセイが死に、セイの再生であるジュニア・セイに未来が託された構図を継承しています。
この構図は、「バルバラ異界」の茶菜と青羽や、タカとパインの構図に継承されます。


ですが、キラとジュニア・セイの未来の背景は、大きく異なります。
「百億の昼と千億の夜」でも、「スター・レッド」でも、「委員会」が「排斥」、「滅びへの道」の姿勢を変えることはありませんでした。
ですが、「マージナル」では、これが変えられたのです。


「スター・レッド」のラストの希望は、ほとんど絶望的なものでしたが、「マージナル」ののラストの希望は大きなものです。
「スター・レッド」のバッドエンドは、「マージナル」で良い方向に変えられたと言えます。


先に書いたように、このラストを導けたのは、「スター・レッド」の設定とは違って、二項対立的戦いの物語を崩したから、そして、「海の生命の律動」という純粋に肯定的なものを見出したからでしょう。

 


ですが、「マージナル」は、本当のハッピー・エンドではありません。
キラは地球の海を復活させましたが、そこには、ほとんど自分の意志が存在しませんでした。


キラはグリンジャ、アシジンに愛され、記憶を解放しましたが、それが結果的に、地球の海の復活を導きました。
ですが、キラの成長、自我の確立はほとんど描かれませんでした。


キラの成長と人間の復活の課題は、最後のキラの未来に託されました。


つまり、課題を解決する続編の必要性は、また、継承されたのです。