トキハという百貨店近くに滞在したことがある。

美人が多くて有名だという豊の国 大分で,トキハのアパレルで働くひとから,

別府や湯布院に連れて行ってもらった時のことだ。


大分駅近くの,ホテル・ザーズの近くを指定されて,私は早朝のまばらな

人の流れを見下ろしながら立っていた。


「ポプラ」という見慣れないコンビニが目につき,何の気なしに

視線を投げていると,細い路地を猛スピードで走り抜けてきた

黒いジャガーがポプラの駐車場に急停止して,鮮やかな真っ白の

スーツに身を固め,バーミリオンのシャツに黒いネクタイという

パンチパーマの若者が降り立った。


スピード感に溢れた展開に「おお これはアンブッシュで銃撃でも?」と

思わず目を凝らすと


若者は,ケータイをまるで拳銃のように素早く抜き出すと,気合の

入った大声で話し始めた。この動作は,引き締まった体をクルリと

一回転させながらだったが,どういった意味があるのかは今も不明

である!?


それは少なくとも,直線にして200メートルは離れていた私にも

ハッキリ聴こえる大声だった。「お疲れさんです!今,ポプラに

おるんですが」で始まり,中身は今後の指示を上の者に仰ぐ内容だった。


その時,優しい掌が右の肩を軽く叩いた。振り向くと,可憐で美しい

豊の国のひとがいて,形のいい唇が開きかけると「何してるの?」

と聞きたそうに小首を小さく傾けた。


「いや あの・・・ああいった姿が眩しく見えた頃があったなって」

彼女にそう言いかけてポプラへ向き直ると,黒いジャガーが路面を噛む

悲鳴と白煙を残しながら走り去るところだった。


久しぶりに耳にしたポプラの報道を見ながら,豊の国で見かけた,

美しいひとと黒いジャガーが配された早朝の風景を思い出した。


あれは,遠い日曜日の朝だった。