おそらくは何かへの評価を口にする時が多いと思うが,「だいたい」という言葉がある。

男性も女性も,少なくとも私の周囲ではそうである。後には「~のくせに!」が続くことが非常に多い。

この「~のくせに」は,ジェンダーフリーが世を席巻するようになり,理不尽な言葉狩りが「思想及び良心の自由」を弾圧するようになってから表向きは鳴りを潜めたのだが,かえってフラストレーションをためる結果につながり,時としてひょっこりとその姿を現す。

オフィスに突如として乱入してきた酔っ払いに慌てふためいた,いつもはアラミスの香りをぷんぷんさせて,アカスキュータムのトレンチの襟を立てて洒落こんでいる男性のことを持ち出した美しい人妻は,

「おたおたして顔からは血の気が引いて,上司なのに部下の男性二人を盾にするように前へ押し出して後ろへ隠れたんですよ!」

「だいたい 男のくせに度胸がないなんて最低!酔っぱらうと私を誘ったりもするくせに,イザという時に部下のために体を張れないんじゃアレはダメな男ですね」と,「くせに」二連発でアッサリと評価を下した。

腕力に自信がないなら,そのあたりの得物を手にするなりして,せめて賊を威嚇だけでもすればよかったのに,もしもこの人妻を狙っていたのなら,

あるいは部下全般の女性達を「あわよくば」と狙いつつ日々のオシャレに精を出していたのなら,彼は決定的なミスを犯してしまったことになる。

なにしろ,人の口に戸は立てられない。特に女性のそれにはなおさらである。

まあ,天の摂理により?暴走する下半身の不埒な企てが,乱入した酔っ払いによって未然に防がれたのかもしれないが・・・

もうひとつは,公職にあることを利用して,原発の再稼働をエサに九州電力に博多座の観劇チケットを夫婦分,自分から「僕 夫婦で博多座を観るのが好きなんだ」とタカッた,自称エリートの誇り高き?知事に関するエピソードで,

鹿児島県と中国との空の直行便を維持するためと称して,なんの効果も期待できず,しかも割高な,公務員による中国への研修旅行をキッカケとして始まった知事リコールの際,知人からかかってきた電話で「だいたい」が飛び出した。

彼は,まだ記憶に新しい,公職を利用したタカリ行為にも触れた後で,「チッ!」と鮮やかに耳に響く舌打ちをした後でこう言ったのだ。

「だいたい チビのくせに生意気なんですよ」

暮れなずむ郊外のバイパスを,臨時に高速道路にしていた私は(ごめんなさい)思わず笑ってしまった。

この知事の,会いたくない人々からの面談要求には自室に閉じこもって絶対に出て来ず,そのくせ県庁の記者クラブ室で誰にともなく,気に入らない連中の悪い噂を聞こえよがしに呟いたりする,卑怯で臆病な小役人ぶりを思い出したからだ。

知事選挙の最中に市電から偶然目にした,繁華街での演説用に非常に高い足台に乗っている姿も浮かんだりした。

あの時は「もしも部下が足台をわざと二段積んだりしたら,次の朝には間違いなく僻地へ左遷されているだろう」と思って必死で笑いを噛み殺したのだった。

しかし,身体的な特徴を論うことは,たとえ相手がどんな人間だろうが許されないことだ。

「それは戒めなければいかんぞ」と声を出して自分に厳しく言い聞かせつつ,涙を流して私は笑っていた。

「だいたい」と相手の口が動くと,後に続く言葉に滲む本音がもたらす笑いを,思わず期待してしまう癖が直らない。