特定されると殺されかねないので!?「とある」とする。

とある寄宿舎の寮母さん達が集まる場所へ,所用で出向いた私は,与えられた椅子に腰かけて数人の女性達と話していた。

用件が一段落すると,誰からともなく私の年齢を問う声が出た。答えると全員が一斉に「え~っ!そんなに行ってるのお?嘘お~」(よけいな世話だ)と声を上げた。

「いや それはその・・・ありがとうございます」と一応答えると,カッパドキアの魔女のような痩せぎすで干からびたようなのと,三蔵法師を護衛する猪八戒のようなのが二人して,どうしたら肌をそんなに若々しく保てるのかと聞く。

どうしたらと言われても,当方は普通の洗顔以外はアフターシェーブローションを叩くくらいで何もしないから答えようがない。

かといって,蓼食う虫もの譬えどおりに二人とも夫がいるので,あなた方のボランティア精神に溢れる愛する御主人達にまずお聞きになれば?などとは口が裂けても言えない。

「ぜひ 伺いたいわ!」と,二人が急に身を摺り寄せてきたのには閉口し,思わず救援のヘリを呼びたくなったほどだ。

だいたい,男がある程度の年齢を過ぎてから,不相応に若く見られるのは良くないと私は思っている。

要らざる侮りを招いたり,自分の息子みたいなのから妙になれなれしくされたりでロクなことはない。

大人になれば,めったやたらとぶん殴るわけにもいかないので精神衛生上もはなはだよくない。

「いや まだまだワシも若い子にモテたいんや」というお気持ちはまあ同性ですから解りますが。

迫ってくる妖怪達に内心で焦りながら(ごめんね)私は,いつの頃からか女性を判断する「厳しい基準」としている「無人島のテーゼ」を思い浮かべた。

あなたが無人島に二人きりで取り残されたとする。もはや地球上に男女二人だけしかいなくて,ここで子供が産まれなければ人類は絶滅するというシビアな状況である・・・とした時に

はたして人類は存続するか?が,この無人島のテーゼなのだ。

私は急いで干からびた魔女と,はち切れそうな猪八戒を交互に無人島へ連れて行った。水平線に夕陽が落ちかけている。苫屋には火が焚かれ,寝屋の支度は整っている。

私は迷うことなくハンモックへと一人で身を沈めた。生来が優しいので「おやすみ」だけは言って。二人共に結果は変わらなかった。

人類は滅びる。

またいずれ神の摂理により繰り返しの時が来るだろうが,それは私の関知するところではない。

瞬時に無人島の結論を出した私は,実はヘチマのローションと豆乳イソフラボンの乳液を愛用し,掌で頬をマッサージすること日に千回は下らないのだと,まことしやかに作り話をした。

二人が熱心にメモを取っているのには気の毒な気がして,たとえこれが本当だったとしても,モノには限度というものがあり,君達はとっくにそれを超えているのだよ なんてことを考えながら。

このテーゼは,雑踏を車窓から見つめる時や,百貨店や駅を歩く時などに浮かんでくることが多い。「絶滅,絶滅,また絶滅,今来たあの子もまた絶滅。う~ん この方とは話し合ってみようかな?」といった具合に。

もちろん,差し向かいで座って女性にこのテーゼを持ち出したことは一度もない。

多少なりとも好意を持った女性から「そういうことでしたら,私,絶滅で結構です」とバッサリやられた日には一気に生命力が枯渇してその場でミイラになるかもしれない。

時が満ちれば,このテーゼは斬新で的確なプロポーズとして一大ブームを巻き起こし,私は発案者として引っ張りだこに・・・なるわけないか。