真夏の真昼は、いくつかの消し難い記憶と強く結びついている。
夏休みに通った小学校のプールの、更衣室にこもっていた塩素の匂いと、プールサイドに出た瞬間に足の裏を焼くようだった熱せられたコンクリートの感触。
水に体を滑り込ませた時の開放感と、潜り過ぎて耳に入り込んだ水を片足立ちで跳んでは流し出そうとする時のもどかしさ。泳ぎ疲れて立ち止まり、プールの真ん中から見上げた夏の空には入道雲が林立して鮮やかな白を刻んでいた。
サンダル履きでバス通りを歩いて帰る家路は、アスファルトの照り返しで暑かったが、水と思い切り遊んだ後の心地よさに足取りは軽かった。
あるいは日盛りの柔道場。畳の匂いと汗の匂い、そして中学生のまだ幼い体臭が入り交じり、周囲の林からは蝉時雨が降るようだった。
道着を濡らしていく汗は青畳に滴り落ち、時には足を取られて転んだりした。シャワーなどはなく、部室でタオルを使うだけで、練習を終えて身に着ける制服からは道着と同じ匂いがしていた。
高校生になった夏に、生まれて初めて左膝に鋭い痛みを感じ、長く続けた電気治療はまるで効果はなく、水がたまっては抜くことを繰り返し、結局は進級前に半月板を切除することになってしまった。
リハビリはうまくいかず、努力は懸命に続けたものの、左膝に抱えてしまった爆弾は、それから数十年にわたって私を苦しめた。
灼熱の草原を匍匐していた午後、大学を終えて入隊した陸上自衛隊で私は日盛りとの新しいつきあい方を学んだ。
ざらざらした額を拭ってなめてみると塩辛く、全身の毛穴から汗が噴き出したようで、1リッター切りの水筒はすぐに空になった。
体を偽装するために身に着けたアカシアの葉は暑熱と激しい動きで水気をうしなって取れてしまい、小さなナイフで新しい葉を切り取ってはカモフラージュをやり直さなければならなかった。
日盛りは、大地を這う若者達を容赦なく鍛え、日没近くにキャンプへやって来る「水」の補給への渇仰を否応なくかき立てた。
白い光に溢れた日盛りは、まだ見ぬ日々への胸弾む憧れや、思春期の頼りなくもどかしい情熱のざわめき、断ち切られた夢と、うずくまる未練、挑んだ試練の幻影を呼び起こす。
もう命をかなり使ってしまった今になっても、「短くも また寂しくも 幸多かりし 暑きわが夏」という、大好きなニーチェの言葉が、自らをフルに燃焼させる真夏の真昼への尽きない憧憬と共に胸深くこだましている。
夏休みに通った小学校のプールの、更衣室にこもっていた塩素の匂いと、プールサイドに出た瞬間に足の裏を焼くようだった熱せられたコンクリートの感触。
水に体を滑り込ませた時の開放感と、潜り過ぎて耳に入り込んだ水を片足立ちで跳んでは流し出そうとする時のもどかしさ。泳ぎ疲れて立ち止まり、プールの真ん中から見上げた夏の空には入道雲が林立して鮮やかな白を刻んでいた。
サンダル履きでバス通りを歩いて帰る家路は、アスファルトの照り返しで暑かったが、水と思い切り遊んだ後の心地よさに足取りは軽かった。
あるいは日盛りの柔道場。畳の匂いと汗の匂い、そして中学生のまだ幼い体臭が入り交じり、周囲の林からは蝉時雨が降るようだった。
道着を濡らしていく汗は青畳に滴り落ち、時には足を取られて転んだりした。シャワーなどはなく、部室でタオルを使うだけで、練習を終えて身に着ける制服からは道着と同じ匂いがしていた。
高校生になった夏に、生まれて初めて左膝に鋭い痛みを感じ、長く続けた電気治療はまるで効果はなく、水がたまっては抜くことを繰り返し、結局は進級前に半月板を切除することになってしまった。
リハビリはうまくいかず、努力は懸命に続けたものの、左膝に抱えてしまった爆弾は、それから数十年にわたって私を苦しめた。
灼熱の草原を匍匐していた午後、大学を終えて入隊した陸上自衛隊で私は日盛りとの新しいつきあい方を学んだ。
ざらざらした額を拭ってなめてみると塩辛く、全身の毛穴から汗が噴き出したようで、1リッター切りの水筒はすぐに空になった。
体を偽装するために身に着けたアカシアの葉は暑熱と激しい動きで水気をうしなって取れてしまい、小さなナイフで新しい葉を切り取ってはカモフラージュをやり直さなければならなかった。
日盛りは、大地を這う若者達を容赦なく鍛え、日没近くにキャンプへやって来る「水」の補給への渇仰を否応なくかき立てた。
白い光に溢れた日盛りは、まだ見ぬ日々への胸弾む憧れや、思春期の頼りなくもどかしい情熱のざわめき、断ち切られた夢と、うずくまる未練、挑んだ試練の幻影を呼び起こす。
もう命をかなり使ってしまった今になっても、「短くも また寂しくも 幸多かりし 暑きわが夏」という、大好きなニーチェの言葉が、自らをフルに燃焼させる真夏の真昼への尽きない憧憬と共に胸深くこだましている。