これまで時系列で綴ってきた記憶だけど


 今後はやや駆け足で点描風に書いていくことにする。



 本土へ帰ってきた先は南薩摩の加世田というところで


 隣のトトロに出てきたような大きな農家を借りることになった。



 市街地から少し外れた田んぼに囲まれた場所で


 月夜などは,目の前の林に大きな月がかかり,農道を本当にトトロが


歩いてくるような気がした。



 生まれつき普通に歩けないことが,島を離れる直前にわかった次男が


リハビリに隣町まで通ったのもこの家で



 義父や家人,時には私が根気よく病院へ連れて行った。



 湾曲してしまった足をまず温め,マッサージの最後に力を入れられると


それをしおのようにして次男は泣いた。



 見守るこちらも泣きたかった。



 次に歩行訓練へ移ると,若い男性の療法士が優しくリハビリをしてくれて


次男は元気を取り戻して少しずつ歩く練習をした。



 いつも重たい装具を着けられているのを見ると不憫でしかたなかったが


外れる日を信じ,できれば切開手術をしなくて済むようにと日々祈った。



 ある時,買い物に入った店で,後から入ってきた親子連れが目引き袖引き


無遠慮な視線を次男に浴びせ,母親が「○○ちゃんも言うことをきかないと


あんなふうになるのよ」と何気なく言ったことがあった。



 また,これは身内の者が親子で遊びに来た時に,父親の方が自然に?


「△△(娘の名前)はこんなにならずに本当に良かった」と小さく頷きなが


ら呟いたことがあった。



 どちらも口にしてはならないことで,私は,腹が立つよりもそういった自制の


術を躾けられずに人の親になっている両者を憐み蔑んだ。



 この,かわいくてよく女の子に間違われていた次男は、トトロに出てくる「猫バ


ス」が怖かったらしく,初夏の頃で夜風が気持ちの良い晩に広い庭に抱いて立


っていた時に私がわざと



 「あ!猫バスがこっちへ来るよ」と話しかけたら,怖そうに私の方を向いて


小さな手に力を入れて抱きついてきたことがある。



 今では成人も近く,いつしかすっかり男になってしまったが?!ふとした瞬間


に,あの時に背中に回されていた小さな手がこめた力を思い出して胸が熱く


なることがある。