離島へ渡って4年目ともなると,なんだか本土が恋しくなってきた。


 釣りはイライラして向かず,パチンコもなんとなくやめてしまい,酒はそう


好きではない となると



 自分の時間は自然に読書にあてるようになっていった。



 旧約&新約聖書やコーラン,般若心経などを根気よく読み返したりしているう


ちに



 ふと目についた新聞広告で,私は東京裁判関係の資料を読んでみようと


思い立った。



 冒頭陳述から始まって有名なパール判決書に至るまで,たくさんある時間を


使って繰り返し読みふけった。



 そこには初めて目にする「日本の弁明」があり,征服者アメリカが目を光らせ


る中で,日本へ渾身の勇気をふるって忠誠を尽くした人々の姿があった。



 箱詰めの水を宅急便で取り寄せるのが流行っていて,飲み終えると引っ越し


用に空箱を倉庫に積んでいくのが暮らしの区切りのようにもなっていた。



 私は,積みあがる空箱と競争するようにして読書量を増やしていった。


 それは今思えば,血の記憶に連なる祖国日本との邂逅だったのかもしれなか


った。