家人は島で二度流産をした。
親が来てくれたことも一度はあったけど,まだ小さかった長男を飛行機で
本土へ連れ帰って両親へ渡し,なんとか騙して置いて帰ってきたこともあった。
ずいぶん経ってから,家人の里へ連れて行かれる途中の峠道で,まだ3歳くら
いだった長男が泣いたことを聞き,胸を締め付けられる思いがした。
妊娠初期の不安定な時期は,背伸びして高い場所の物を取ったりとか,段差
のある場所へトンと降りたりとか,些細なことが流産の原因になってしまう。
慣れない環境での暮らしも多少は原因したのだろうが,しばらく家人は女の子
の絵を家に飾っていた。
私はずいぶん長い間,その意味がわからなかったが
生まれてこなかった命がおそらくは,二人共に女の子だったような気がしてい
たのだろう。
その後生まれたのは二人共男の子だったが,この世に生を受けなかった二人
がまた生まれてきてくれたのだと思えるようになってから,家人の気持ちもやわ
らいだようだった。
自分と同年代で娘の話をする人と同席するたびに,あるいは,生まれてい
れば今頃はちょうどこのくらいかと思える女の子を見る時に
たまには「しっかりしなさいよ おとうさん!」と叱ってくれる娘がほしかったな
と思うことがある。