徳之島に住んでいる間にひき逃げが一件あり,すぐに港も空港も封鎖された
はずなのにお宮入りとなったのは摩訶不思議だったが
忘れられないのは,ある朝の出勤途上の光景だ。
伊仙町役場の横を通って職場へ向かう途中,側溝の横に人がうつぶせに倒
れていて血の気がまるで無い青白い顔を見せていて,横には血だまりができて
いた。
おお これは死んでるなあ・・・でも人だかりができているからじきに救急車と
警察が来るだろう・・・喧嘩かな?などと思いながら出勤すると,職員室も事務室
も高校はその話題で持ちきりだった。
特に人の死に慣れていたなんてことではなく,周りの状況から誰が見ても
死体が倒れていると感じられたはずだったのだが
騒然とする中へ,最近転勤してきた沖永良部出身の教師が間延びした声で
「おはよう」と言いながら入ってきて
「おーい みんな 今誰か役場の前で寝てたよ~」とのんびりした口調で
言ったのには一同目が点になってしまった。
この人は,俺は高校の時はボクシング部でと自慢する割には,生徒から殴ら
れて逃げ出し,校長室へ逃げ込んで校長を逆上させるようなトボけた味わいの
あるキャラだったのだが
この朝のあまりのズレぶりはその後長く語り草になってしまった。
事件は,酔って前妻の夫に電話をかけた前夫と現在の夫とのトラブルで,い
わば名誉を賭けた決闘だったように記憶する。
私はつい,策略により妻を侮辱され,決闘に追い込まれて命を落とした
ロシアの天才詩人プーシキンを思ったりしたが
ある面で気性の激しい島気質の一端を垣間見た事件だったのかもしれない。