誉れの夏72
警察は例によって「被疑者死亡」として書類送検するはずだ。
祖国への義務を果たした命へ与えられる件名は「被疑者死亡」だ。
隊員が示した崇高な祖国への忠誠に対して、いつも日本は冷酷に報いるだけだから。
祖国を護ろうと命を投げ出した若者を犯罪者呼ばわりして恥じない国に、いったいどういった種類の「国際貢献」を語る資格があるのだろう?
自らを自らが貶めることが常態化してしまった大人達は、どんな未来を子供達に示せるというのだろうか。
電車の連結部の蛇腹がまるで生きているように動いて俺の背中を揺さぶった。
斜め前の座席に足を組んでいる若い女が同情を滲ませた目で見つめているのに俺は気づいた。
視線を受けとめようとすると頬が冷たく、初めて自分が涙を流しているのを知った。
俺は失恋したわけじゃないんだ。
同じ女性に惚れていた元相棒が死んだんだよ。
あんたもその女性の一部なんだ。
夏の日に陵辱されてから自分一人で歩けなくなったひとなんだ。
自分の力で立ってはいけないと言葉巧みに言いくるめられて身ぐるみ剥ぎ取られてしまった。
でも、俺達は命を賭けて愛しているんだ。
きっとまた、本来の気高さを取り戻してくれると信じて。
この星で一番素敵なひとなんだよ。
わかるかい?
これが大の男が人前で涙を流してる理由だよ。
電車は夜の中を規則正しく音を刻みながら走り続けていく。
頼りない共感と、巧妙で陰湿で冷徹な計算に裏打ちされた憎悪と嘲りに取り巻かれた敗者の時間は、これからも未来永劫変わることなく流れ続けるのだろうか?
重く、もどかしい春はいつ終わることだろう。
完