誉れの夏70


 最後まで懸命に操縦したに違いない。


責任感が人一倍強かったから立派に務めを果たしたはずだ。

 

命は飛び去った。もはや肉体にはなんの用もなくなって。


瞬時の死だったと思いたい。


これまでのことが映画のラッシュのように脳裏をかすめたろうか?


そこには俺とのこともあったのか?


君は自由な飛翔を手に入れ、汚濁も悲哀も愛憎も無念も投げ捨てていく。


あんなに愛した祖国は愛を報いてくれることもなく、君の祖国への愛だけが至高天へと一直線に駆け上がっていく。

 


夏がほしいと君はよく言っていた。


快い汗と命の充実と、大地を抱きしめたくなるほどの祖国への強くて確かな絆に彩られた誉れある人生の夏が。

 

敗北で錆びついた昭和の理想と打ちのめされた名誉は、あさましい復讐の季節と共寝させられてきた祖国の懐で窒息しかかっている。


俺達への冷ややかさは永久に支配を続けるように思われ、いつまでも扉は閉ざされたままだ。


求めた夏は後ろ髪さえつかませずに姿は朧気に霞み、絶望の鉄鎖は幾重にも身を取り巻いて、偽善と諦観に縁取られた敗者の冠を被せ続けようとする。


叫びは利用価値のある場合しか国民には届かず、しかも歪曲されている。